研究課題/領域番号 |
15F15086
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
浅見 崇比呂 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (10222598)
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研究分担者 |
PALL-GERGELY BARNA 信州大学, 理学部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-10-09 – 2018-03-31
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キーワード | 左右性 |
研究実績の概要 |
巻貝の交尾器は正中面ではなく体の側面にある。このため、左右逆に発生すると野生型との交尾が物理的に難しくなり、淘汰される。この正の頻度依存淘汰は、交尾せずに放精放卵する巻貝や、交尾器が正中線にある動物では生じえない。にもかかわらず、左右逆に発生する内臓逆位の系統や種は進化しておらず、巻貝同様に螺旋卵割する他の冠輪動物においても進化していない。左右反転に対する純化淘汰はこの進化パターンを説明しうるがメカニズムは不明である。交雑実験により同一両親の核ゲノムを共有する右巻と左巻のきょうだいを作成しても、右巻と左巻は互いの鏡像対称には発生しない。しかも、左巻変異体は右巻に比べ孵化率が低い。ゆえに不可前の発生段階で左右反転に対する純化淘汰が生じる。もしこの純化淘汰が左右反転の進化を抑制するなら、なぜ交尾する巻貝でのみ左巻がくり返し進化できたのかが問題となる。本研究の目的は、左右逆に発生する巻貝の進化を可能にする遺伝システムの存在を検証することにある。螺旋卵割の8細胞期に動物極からみて小割球が大割球に対して回転する角度(螺旋度)は、個体間で量的に変異し、正規分布から有意にはずれていない。その平均値は両親しだいで変化する。左巻予定胚の螺旋度の個体間の分散は、右巻予定胚の分散よりも有意に大きく、平均値の絶対値が前者では有意に小さい。したがって、螺旋卵割の左右極性は左巻予定胚のほうが野生型の右巻予定胚よりも量的に低い(弱い)。この量的差異は右巻と左巻を別個に系統維持したために生じる系統間の遺伝的背景の差異によるものではなく、初期胚の左右極性を決定する母性効果因子と螺旋卵割の螺旋度を量的に左右する因子との相互作用に起因すると考えられる。しかも、右巻予定胚の螺旋度の量的変異は孵化率と無関係ではあるが、左巻予定胚の螺旋度の絶対値にみる量的変異と孵化率には正の関係があることをつきとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
螺旋度の量的変異と以降の個体発生(形態形成)との関係に関する実験計画を順調に遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
左巻予定胚の螺旋度にみる量的変異と右巻予定胚の螺旋度にみる量的変異との比較をさらに進め、初期胚の左右極性の量的変異がもつ発生学的な意味と進化学的な意味を理解するための遺伝解析を遂行する。
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