研究課題/領域番号 |
15F15092
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 淳司 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40183842)
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研究分担者 |
PENTTILAE PAAVO 京都大学, 生存圏研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-10-09 – 2018-03-31
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キーワード | セルロース合成酵素 / バクテリアセルロース / ヘミセルロース / 小角散乱 |
研究実績の概要 |
セルロースは、複数本の分子鎖が束ねられたミクロフィブリルとして存在する。セルロース合成酵素は、糖転移反応によるグルコースの重合と、合成された高分子セルロース鎖をミクロフィブリル構造にまとめる構造制御の2つの過程を含む。この2段階過程を精査するために、セルロース合成酵素によるセルロース合成反応を直接の観察対象として実験を行う必要がある。 重合過程の研究については、組換え体セルロース合成酵素によるセルロース大腸菌合成系を使い、変異導入セルロース合成酵素の合成活性を測定し、既報の構造モデルとの比較から、セルロース合成酵素の構造・機能相関分析を行っている。また、その相補実験として、試験管内合成反応系で、各種条件を厳密に制御したうえで試験管内合成を行い、得られるセルロースの構造解析を行った。これ迄に物理的な刺激である重力(遠心力)が合成産物にどのように影響するかについて実験を取りまとめ、国際誌(Carbohydrate Polymer)に発表した。 構造制御過程については、天然のモデルセルロース合成生物である酢酸菌を用いて検討を進めている。樹木細胞壁のヘミセルロースの共存化でセルロース合成させることにより、様々なセルロース・ヘミセルロース複合体を調製した。その形成過程ならびに酵素分解過程を精査することにより、セルロース分子の集合過程において特定のヘミセルロースが影響することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高輝度放射光実験施設(SPring-8)の2015B期公募課題が採択され、セルロースの試験管内合成過程で生じるセルロースの高次構造変化を調査した。すなわち、試験管内セルロース合成反応系において、広角回折と小角散乱の時系列測定を行い、合成反応の進行による回折・散乱プロファイルの変化を追跡した。測定データの詳細な分析を行ったが生成物の濃度が十分でなかったため、小角散乱のシグナルが十分に得られず、合成産物の孤立形態、形状、集合状態、表面構造などに関する逐次情報を明らかにするには至らなかった。 一方、ヘミセルロース存在下で酢酸菌を培養することにより調製されるバクテリアセルロース・ヘミセルロース複合体の小角散乱を行った。当初の計画では、バクテリアセルロースを気体透過性の高いチューブ内で合成させることにより、セルロースミクロフィブリルが配向したセルロース・ヘミセルロース複合体を調製できる予定であった。それはヘミセルロース添加による構造変化の異方性、すなわちミクロフィブリルの長さ方向と幅方向の変化を調べるためである。しかし、予想に反して配向度は向上せず、結果として小角散乱強度が十分に得られなかった。そのため散乱強度を全周積分することにより測定データの分析を行い、合成されたセルロースミクロフィブリルの平均的な構造がヘミセルロースにより受ける影響について考察した。 さらに、次年度の実験に向けて、バクテリアセルロース・ヘミセルロース複合体の重水素化物の調製に関して予備実験を行った。また、バクテリアセルロース・ヘミセルロース複合体の酵素分解について予備実験を行った。
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今後の研究の推進方策 |
樹木細胞壁に含まれるヘミセルロース共存下で合成したバクテリアセルロースについて、放射光小角散乱実験を行い高次構造の変化を調査した。その結果、特異的なヘミセルロースがセルロースミクロフィブリル表面へ凝集していること、またセルロース多形の発生に影響することが示唆された。データ解析をさらに進め、近日中に論文として投稿する予定である。また、ヘルシンキで開催されるNordic Polymer Days 2016 ならびにつくば市で開催予定のセルロース学会年次大会において発表予定である。 上記の延長線上の研究として、セルロース・ヘミセルロース複合体の重水化物を調製し、中性子小角散乱実験に供する予定である。現在J-PARCに課題申請中であるが、採択された場合には実験を秋に実施し、年度末までには論文として投稿する予定である。 さらに、作成したバクテリアセルロースとヘミセルロースの複合構造体の酵素分解挙動の解析を進展させ、ヘミセルロースによるセルロース表面の被覆や酵素糖化率のヘミセルロース依存性などを明らかにしたい。すでに予備実験としては、特定のヘミセルロースが酵素分解能に影響することが明らかになっており、今後検証実験を重ねて、年度末には論文にとりまとめる予定である。 以上のように、セルロースミクロフィブリルの構造と細胞壁成分、特にヘミセルロースとの相互作用が、いかに構造形成や分解特性に影響するかをバクテリアセルロースの実験系を活用して明らかにしていく予定である。またセルロース合成タンパク質を用いた試験管内合成実験に関しては、ナノディスクに固定化したセルロース合成酵素から合成されるセルロースの構造形成過程を精査する予定である。そのため6月に放射光小角X線を用いて、合成反応の逐次観察を実施予定である。
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