研究実績の概要 |
1.日本の小児ウイルス性胃腸炎の分子疫学的研究 小児下痢症は原因が確定されないまま、対照的治療が行われることが多い。しかし時に中枢神経障害などの重篤な全身合併症を来し、生命予後に関わることもある。我々は臨床検体を用いた病原体の検出と流行パターンの解析を行った。 2009-2016年の3637検体から75.5%にウイルスが見出された。ノロウイルスGII、A群ロタウイルス、パレコウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルス、サポウイルス、アストロウイルス、ボカウイルス、ノロウイルスGI,サフォードウイルス、ロタウイルスC, アイチウイルス、コサウイルスがそれぞれ44.9%, 19.4%, 8.9%, 7.1%, 5.8%, 5.5%, 4.5%, 3.5%, 0.5%, 0.4%, 0.3%, 0.1%, 0.02% に見いだされた。2つ以上のウイルスの混合感染が見られたが、ノロウイルスと他のウイルスの混合感染が多かった。3歳以下に多く、ノロウイルスとロタウイルスは冬期から初春にかけて見られるが、他のウイルスでは季節差は見られなかった。 2.日本の小児のノロウイルスの遺伝子型の変異 小児下痢症では特にノロウイルスが重要であるが、未だに有効なワクチンがない。変異も多いため、これがワクチン設計を困難にしている。我々の研究から1995-2015年の間ではノロウイルスの中ではGII.4が多く、世界的な流行がみられる。これはGII.4内の変異株の流行で、2-3年ごとに認められる。変異はP2サブドメインである。1995-2015のノロウイルスの中で、GII.4が64.8%であり、GII.3,GII6,GII.2, GII.14が続く。また2014年からGII.17が見出された。GII.4の中で過去から見るとDresden_1997, DenHaag_2006b, Sydney2012が主な変異株である。現在でもSydney_2012を中心としてGII.4が主であることがわかった。変異が流行の原因となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、糞便検体を中心に研究を進めていたが、糞便汚染による下水からの病原微生物遺伝子の検出を試みたところ、予想以上に多種のウイルスを検出できた。9カ月間でA群ロタウイルス、アストロウイルス、ノロウイルスGI,II,サポウイルス、パレコウイルス、エンテロウイルス、アイチウイルス、ボカウイルス、サフォードウイルス、サリウイルス、カンピロバクター、インフルエンザウイルスの遺伝子がPCRで見出された。月によって検出されるウイルスが違っており市中流行パタンを反映していた。ノロウイルスGII.17も見出された。多種類のウイルスの遺伝子がヒトからの屎尿を含む汚染水から検出されたことから、下水中の病原体遺伝子の検出は先進国である日本においてもリスクアセスメントの指標になりうることが判明した。
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