研究課題/領域番号 |
15F15301
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
糟谷 啓介 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (10192535)
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研究分担者 |
HAGGAG RANA 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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キーワード | アラビア語 / 宗教言語 / クルアーン / 翻訳 |
研究実績の概要 |
平成27年度においては、エジプトないしアラブ圏での現地調査と資料収集を予定していたが、さまざまな点から見て現地調査の条件が整わなかったため、文献に基づく研究を先行させて進めた。これによって全体の研究に支障が生じたわけではなく、研究の順序を若干前後させたにすぎない。 平成27年度においては、研究全体の基礎作業として、クルアーンというテクストの言語的特徴に焦点を合わせて研究を進め、所属する大学院の紀要に論文を一本発表したほか、韓国の延世大学国語国文学科の招聘による招待講演を行った。 論文「クルアーンの物語の固有性についての考察――構造分析の限界をこえて」は、クルアーンに収められた物語の特徴を明らかにするために、まず構造分析の方法を適用して物語の特徴を抽出することを努めた。その際、神話や聖書に関する物語の構造分析の成果を援用した。しかしその結果明らかになったのは、クルアーンの物語の特徴は、構造分析という方法論では十分に明らかにできないということであった。それは構造主義の手法では、物語の統語論的構造を明らかにすることはできても、物語の語り手から聞き手に向けられた語用論的条件をはっきりととらえることができない、ということであった。この語用論的条件とはクルアーンが声の文化に基づいていることから来る。 招待講演「イスラームにおける宗教言語の特徴」では、クルアーンにおけるメタファーの使用法をとりあげ、イスラームにおける宗教言語の特徴について解説した。韓国の研究者との討論を行うなど、たいへん有益な機会であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心となる目的は、アラビア語におけるダイグロシア(diglossia)という現象がアラビア語のテクストの形成とその翻訳に引き起こす問題を考察することである。平成27年度においては、物語やメタファーの観点からイスラームの宗教言語の特徴を考察したが、これはアラビア語のダイグロシアを構成する柱であるフスハーとアンミーヤの対立を考える際には、フスハーが宗教的領域の語彙と文体に支えられていることを明確にするための基礎作業である。その意味で平成27年度は、研究全体の方向性に従ったかたちで研究を順調に進めることができた。とくに論文「クルアーンの物語の固有性についての考察――構造分析の限界をこえて」は、物語分析という観点から見ても充実した成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性は、まず翻訳の問題を研究の視野に採り入れることである。その点に関しては、アラビア語から日本語への翻訳の際に生じる翻訳ストラテジーの分析という形での研究を着手したところであり、これは平成28年度の研究の第一の課題となる。第二の課題としては、アラビア語の実際の発話やテクストにおいて、フスハーとアンミーヤの混用がどのようにして生じ、その社会的効果が何かを突き止めることである。フスハーとアンミーヤの混用については、言語学の分野で先行研究があるが、本研究においてはそうした混用がもつ聴衆への効果、ないし社会的機能に焦点を合わせる。そのために政治家の演説を対象に取り上げることを予定しており、これはエジプトを始めとするアラブ諸国における政治文化の特徴を明らかにすることにも寄与しうる研究である。
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