研究課題/領域番号 |
15F15323
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
都丸 隆行 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 准教授 (80391712)
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研究分担者 |
KUMAR RAHUL 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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キーワード | 重力波 / 接合 |
研究実績の概要 |
本研究では、大型低温重力波望遠鏡KAGRAの極低温鏡懸架システムの実現およびこれを用いた熱雑音の低減を目標としている。H28年度は、次の項目について成果を得た。 (1) サファイアテストバルクへのHCB接合:鏡のサイドに取り付けられるサファイアプリズムの接合には、機械的Q値が相対的に大きく、非常に強固な接合が得られるHydroxide Catalysis Bonding (HCB)を用いる。この作業を実施するため、ISO class 3のクリーンブース内にセットアップを構築し、サファイアテストバルク2コへのHCB接合を実施した。接合直後に3次元測定器で取付位置の計測を実施し、要求を充たすおよそ0.2mmの精度で実現出来ていることを確認した。 (2) Indium および gallium Bondingの実施:サファイアファイバーを鏡に取り付ける部分では、取り外し可能なように金属薄膜を用いた接着を用いる。これまでIndiumを用いた接合を模索してきたが、サファイアの熱伝導率が大きいこともあり、大型サファイア鏡にこの技術を用いると鏡自身に熱的なダメージが出る事が分かってきた。このため、より融点の低いgalliumを用いた方法の研究を開始した。小サンプルを用いた捻れ強度試験では、十分な強度が得られ、また、非常に容易な施工方法も確立出来た。 (3) サファイアテストバルクの懸架試験:HCB接合したテストサファイアバルクを用いて、サファイアファイバーでの懸架を実現した。事前にファイバーの強度試験を実施し、安全係数2の荷重で生き残ったファイバーを用いた。今後はこのサファイアサスペンションを用いて冷却試験・Q値試験を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定しているサファイア鏡懸架系を実現するため様々な開発研究を実施しているが、おおむね順調に進展していると考えている。まず当初予定していたHCB接合は予定通り実施し、良好な結果が得られた。また、Indium Bondingについては当初計画していた方法ではうまく行かなかったが、代わりにGalliumを用いた方法を確立し、むしろ別の技術を実現することが出来た。 All sapphireでのサファイア懸架の実現では、予想もしなかったファイバーの破断が多発するという問題に見舞われた。しかしながら、ファイバー全数について安全係数2で荷重試験を行い、これをパスしたファイバーでサファイア鏡懸架を実現すると共に、破断したファイバーの原因について調査研究を行った。この結果、破断したファイバーの大部分は生き残ったファイバーと処理が異なっていることが分かり、今後のファイバー製作について指針が得られた。 このように、いくつかのトラブルには見舞われたが、それを克服することが出来ており、研究の進展としてはおおよそ予定通りであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度についても、同様にサファイア懸架を実施する。 まず、テストサファイアの懸架試験成功に基づき、KAGRAの鏡実機をサファイアファイバーで懸架する最終的なサファイア懸架を実現する。このサファイア懸架を極低温鏡懸架防振システムに組み込み、KAGRAの両エンドにインストールする。これはKAGRAとしてのミッションであり、最優先でこれを実現する予定である。 同時に、サファイアテストバルクの懸架セットアップを用いてKEK内での冷却試験および機械的Q値の計測を実施し、これらから得られる熱雑音レベルの推定を行う。特に、Galliumを用いたファイバーと鏡部の接合方法は接合技術としては確立したが、機械的Q値や熱抵抗などの評価はまだであり、これらを実施する。 次にサファイアファイバーの破断トラブルから、新たなファイバーについても開発を進める。サファイアファイバーはファイバーロッドの両端に引っ掛け部のサファイアブロックがPlasma weldingで接合されているが、welding部で破断が見られ、高温処理による内部ダメージの存在を疑わせる結果となっている。このため、低温で接合出来る方法を模索しており、いくつかの接合方法を試している。今年度は、低温でのサファイアファイバー接合についても研究を進める。 以上のようにして、サファイアサスペンションを実現する。
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