研究課題/領域番号 |
15F15329
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
甲能 直樹 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, グループ長 (20250136)
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研究分担者 |
TSAI CHENG-HSIU 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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キーワード | baleen whale / ontogeny / phylogeny / heterochrony / paedomorphism / peramorphism / ancestor / descendant |
研究実績の概要 |
ヒゲクジラ類の系統進化と地理的放散史の解明にあたって,ヒゲクジラ類の進化過程で起こった体サイズの巨大化に注目し,ヒゲクジラ類の個々の系統の祖先と子孫の関係からこれまでの化石種を網羅的に再検討した.具体的には,現生のヒゲクジラ類の頭蓋各部と体長の計測形態学的相関関係に基づいて,各地質時代のヒゲクジラ類各種の体長推定を行ない,これまで定説とされてきたヒゲクジラ類の体サイズの巨大化に関する仮説(ヒゲクジラ類の祖先はその出現時にすでに大型動物として存在していたとする仮説)を否定し,ヒゲクジラ類は小型の祖先から各系統群それぞれ独立に複数回巨大化したことを示した(Tsai and Kohno, 2016).また,検討中のヒゲクジラ類化石のひとつが,これまで知られる中でも最初期のナガスクジラであったこと(Tsai and Boessenecker, 2017)や,別の一つが北半球で最初のケケノドン類であったこと(Hernandez-Cisneros and Tsai, 2016)を明らかにした.さらに,これまで未記載となっていた北海道~沖縄産の化石のうち,青森県と広島県のものについては分類学的な再検討を行なうと共に,いくつか知られていなかった形態的特徴について再記載した.このうち,青森県産のものについては,すでに標本の再記載と再分類を終えており,現在のナガスクジラ科につながる特徴を持つ基幹的な種であることを明らかにした(Tsai and Kohno, in prep).なお,沖縄県産で北半球から初産出のコセミクジラ化石については,記載論文の作成を完了し,現在投稿準備中である(Tsai et al., in prep).これら本研究による一連の研究を通じて,ヒゲクジラ類の系統進化と地理的放散史の解明にあたっては日本産ヒゲクジラ類化石が極めて重要な役割を果たしていることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は,米国のカリフォルニアとメキシコのバハカリフォルニアから産出したヒゲクジラ類化石の記載論文を公表するとともに,本研究の核となる進化過程におけるヒゲクジラ類の巨大化に関する研究の成果も取りまとめて論文公表することができた.また,昨年度から引き続き行なってきた沖縄県産ヒゲクジラ類の記載論文の作成をほぼ完了させると共に,青森県と広島県から産出したヒゲクジラ類の化石についても詳細な形態観察に基づいて記載分類を行ない,系統上の位置づけとその古生態についての新たな解釈を取りまとめて論文を作成し,一部はすでに投稿中(Tsai, in review)か,もしくは投稿準備中(Tsai et al., in prep; Tsai and Kohno, in prep)である.これらの新たな標本とそれに基づいた議論により,当初の予想どおりヒゲクジラ類の系統進化と拡散,その出現と絶滅に関して,日本産ヒゲクジラ類化石が極めて重要な鍵となる位置づけを持つということを明らかにすることができた.このように,当初から本研究の大きな目的としてきた日本産のヒゲクジラ類化石の記載,系統上の位置づけと分布に関する意義づけのとりまとめがほぼ終了し,ヒゲクジラ類の隆盛と衰勢に関する議論を取りまとめる段階にまで達していることから,本研究課題は当初の計画以上に順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
初年度および次年度(2年目)の研究成果を踏まえた上で,最終年度内に北半球から初産出となる沖縄県産のコセミクジラの系統地理学的意義についての研究論文を公表し,青森県および広島県から産出しているヒゲクジラ類化石の再記載と再分類を目的とした研究論文も投稿を完了させる.また,北九州の漸新統(およそ2500万年前)から知られ,当初ハクジラ類として記載された「歯のある」ヒゲクジラ類についても,新たに得られたホロタイプの形態情報の追加と系統上の位置を再検討して,現在の知識に基づいた最新の分類に改める.さらに,この北九州の「歯のある」ヒゲクジラ類に対しては,より多くの形態的系統情報の追加と共に,初めてヒゲクジラ類の内群の中での系統解析を行なって,これまでわかっていなかったヒゲクジラ類としての系統的位置づけを与える.これらの検討結果を踏まえて,これまであまり検討が進んでいなかった日本産の漸新世~更新世のヒゲクジラ類の標本情報と形態情報を可能な限り整理統合し,系統上の位置づけと適応進化過程を明らかにした上で,日本近海域におけるヒゲクジラ類相の変遷史をすべての地質時代を通して描き出すことを目指す.
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