エディアカラン紀ーカンブリア紀境界における生物の進化と環境の変化の関係を明らかにすることを目的として、中国南部に存在する境界堆積物を用いた環境変動の復元、氷河期との関連、海洋無酸素現象、多細胞生物の発生の年代決定を、東京大学大気海洋研究所設置の二次元高分解能二次イオン質量分析計(NanoSIMS)や安定同位体測定用気体質量分析計を用いて行った。分析に適した堆積物の鉱物や化石を入手するため中国南部で境界堆積物のサンプリングを行うとともに、境界付近の堆積物中から化石や鉱物を選別し、各種微量元素や同位体を分析した。 分析はNanoSIMSによるジルコンやゼノタイムの年代測定および希土類元素分析の他、安定同位体用気体質量分析計による硫化物の希ガス同位体測定、堆積物の炭素酸素同位体測定を行った。さらにICP質量分析計による炭酸塩試料のSr同位体測定も行った。ルチルやジルコンの周りに成長したゼノタイムのU-Pb年代は、推定される堆積年代よりも若い年代を示し、希土類元素パターンなど他の情報と組み合わせると、これらのゼノタイムは堆積後に熱水活動により二次的に成長した可能性を示した。一方、堆積物の同位体分析の結果からは、炭素同位体比(δ13C値)の大きな負の異常が2つの時代に見られ、酸素同位体比(δ18O値)の正へのシフトやMn、Feの増加と相関が見られた。これらは氷河期の特徴を示しており、堆積環境を知る情報が得られた。 今年度の研究実績から、エディアカラン紀ーカンブリア紀境界付近の海洋環境に関する知見が得られ、生物進化の歴史に制約を与える研究に資する成果が得られた。これらの成果は論文にまとめ、国際雑誌に投稿した。
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