研究課題/領域番号 |
15F15344
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 浩昭 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 環境管理研究部門, 研究グループ長 (70357143)
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研究分担者 |
FOUQUET THIERRY 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 環境管理研究部門, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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キーワード | 機能性ポリマー / 構造解析 / 劣化解析 / 太陽光発電モジュール / 質量分析 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、太陽光発電(PV)モジュールの封止材として用いられているエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の化学構造及び劣化解析を中心に研究を行った。まず、EVA樹脂の化学構造を高分解能質量分析法により解析する技術を確立した。ここでは、サイズ排除クロマトグラフィーによる低分子量画分の分取とその質量分析による共重合組成および末端基構造解析、分光分析法による全体構造の確認を組み合わせることによって、EVAの詳細な化学構造解析を達成し、論文発表した。次に、加水分解および熱分解によるEVAの劣化挙動の解析を試み、脱酢酸伴いマススペクトルの変化のパターンを明らかにし、その成果の一部を論文投稿した。また、PVモジュールで用いられるEVA樹脂は架橋しているため、架橋ポリマーから可溶成分を抽出して、架橋反応過程における高分子鎖の構造変化を明らかにした。現在、劣化加速試験を行ったPVモジュールより回収したEVA樹脂の構造解析を試みているところである。 上記に加えて、本研究で用いる高分解能質量分析法が、JSPSフェローアこれまで手掛けてきたプラズマ重合ポリマーの構造解析にも有用であることがわかり、その構造解析も行った。エレクトロスプレーイオン化法(ESI)でイオン化した分子を、さらに質量分析計内で分解することによって構造解析を行うMS/MS法において、研究代表者らが開発したデータ解析法を応用すると、フラグメントイオンの形成機構を可視化できることが分かり、論文発表した。この方法を発展させて、JSPSフェローが在籍していたエクス=マルセイユ大学と共同でプラズマ重合ポリマーの構造解析も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
PVモジュールで使用されるEVA樹脂の化学構造解析及び劣化解析に関しては、EVA純品の詳細な構造解析、架橋EVA樹脂の構造変化の解析、PVモジュール内のEVA樹脂の構造解析へと順調に発展している。それぞれの樹脂の劣化に関する基礎データの取得も進んでおり、熱酸化劣化、加水分解劣化、UV照射による劣化、架橋処理における加熱劣化をそれぞれマススペクトルで識別できる技術を開発した。本成果はEVA樹脂の分子構造を質量分析法により分子鎖レベルで解析した世界初の事例であり、再生可能エネルギーの開発において中心的な役割を果たすPVモジュールの高信頼性を確保するうえで、極めて重要な結果であると考えている。こうした成果は順次発表していく予定であり、現時点で論文受理1報、投稿中1報のほか、国内学会及び国際学会での発表各1件を予定している。 さらに本解析技術を応用して、当初の予定にはなかったプラズマ重合ポリマーの解析も試み、フランスとの国際共同研究を行って、関連論文2報を投稿した。 以上のように、研究は予定していた内容のみならず、派生的に新しいテーマを生み出し、着実に成果を出すことができ、当初の計画以上に研究が進展しているものと自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、実際に屋外で使用された様々なPVモジュールからEVA樹脂を入手し、それらの劣化解析を行って、PVモジュールの使用環境や性能とEVA樹脂の劣化進行度を関連付けて解析することを目指す。また、高分解能質量分析の結果を補完するために、核磁気共鳴分光法(NMR)、赤外吸収分光法(IR)、紫外可視分光法なども利用して、EVA樹脂の総合的な劣化機構解析を行う。こうした成果をまとめて、EVA樹脂の劣化によるPVモジュールの安定性への影響を考察する。 また今年度は、架橋ポリマー樹脂の分子構造解析技術を応用して、水処理用の機能性ポリマー膜の劣化解析へと展開する。微生物の機能を用いて汚染水中の有機物を分解し、膜ろ過により再生水を得る「膜分離活性汚泥法(MBR)」ではポリマー膜としてアクリル樹脂やフッ素樹脂が用いられている。これらの膜表面に汚染物が付着することによって閉塞するファウリングの機構解明を目的として、ポリマー膜表面の化学構造変化を分子レベルで解析する。膜の性能劣化は、微生物分解や洗浄用薬剤による分解、あるいは洗浄時の機械的ストレスなどによるポリマー膜表面の化学構造の変化によって汚染物の付着が促進されているという仮説の実証に挑む。この研究課題の遂行では、実際のMBRにモデルポリマー膜を浸漬し、一定期間が経過した後にポリマー膜試料を回収して、その構造解析を行うとともに、その時の微生物菌叢と関連付けて、微生物によるポリマー膜の劣化機構を考察する。また、MBRの閉塞を防止するために薬剤洗浄工程が加えられるが、それを模擬した試験を行い、薬剤によるポリマー膜の劣化を解析する。ポリマー膜の劣化進行度とファウリング物質の吸着挙動を解析し、ファウリングの予測あるいは予防につながる指標の提案を目指す。
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