研究課題/領域番号 |
15F15367
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金 哲佑 京都大学, 工学研究科, 教授 (80379487)
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研究分担者 |
ZHANG YI 京都大学, 工学研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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キーワード | 長期モニタリング / コピュラ / マルコフ連鎖 |
研究実績の概要 |
社会基盤施設の維持管理を的確に行うためには,最小のセンサで対象社会基盤施設の健全性を精度よく把握する必要がある,また供用中の橋梁でのモニタリングが望ましいが,供用中の橋梁から得られる計測データには橋梁の物理特性に様々な要因によるノイズが混入される.本研究では,様々な外部因子に影響される計測データから橋梁の異常に関わる意思決定の精度向上のために「ノイズを含む多変量モニタリングデータに適合するコピュラモデルの提案」と「意思決定にかかわる枠組の提案」を目標としている. マネジメントや劣化予測の検討としてStochastic Markovに着目し,点検データに基づくStochastic Markovモデルによる橋梁構造物の劣化予測の可能性について検討を行った.その成果をStructural Infrastructure Engineering投稿し採択された.また海洋構造物の維持管理に適用し,Journal of Cleaner Productionに港湾構造物のライフサイクルマネジメントについて投稿し採択された. 特に,初年度のコピュラモデルについての初期検討の知見を生かし,海洋構造物の外力変動について最適コピュラモデルの検討も行い,非対称コピュラモデルの方が海洋構造物の外力変動の確率モデルとして適することがわかった.その成果を権威ある学術雑誌であるCoastal Engineeringに投稿している.また,計測中の約9年分の長期橋梁モニタリングデータの分析と最適コピュラモデルについて検討を行った結果,ガウス型コピュラモデルでもノイズを含む多変量モニタリングデータに適合することがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究では,実橋梁での長期モニタリングデータを用い,温度と損傷指標との相関関係を調べ,約1年間のモニタリングデータからは温度と損傷指標の間に線形的な相関よりは標準偏差も変化する非線形的相関があること,またコピュラモデルについての初期検討でClaytonモデルの有効性が確認された.H28年度の研究では,計測中の橋梁の長期モニタリングデータ(約9年間のデータ)の整理分析を進めるとともに初年度の研究に引き続き,異常検知のための最適コピュラモデルの検討を行った.検討結果,異常検知に考慮する観測値間の確率的な独立性を表すコピュラモデルとしてガウス型コピュラが適切であることが分かった.またコピュラベース尤度比の誘導に成功し,コピュラベース尤度比に基づいた損傷指標Z値を用い橋梁の長期モニタリングへの適用を試みた.また既往の研究で検討されたあるマハランビス距離(MD)およびベイズファクター(BF)による異常検知感度とも比較検討を行った.その結果,コピュラによる損傷指標Z値の方がMDおよびBFより変化に敏感であることが分かった.言い換えれば虚報(false alarm)の可能性も高い.今後はコピュラによる損傷指標Z値の損傷検知における感度と虚報の可能性について検討を行う必要がある. まとめると研究の進捗状況は計画とおり進んでおり,コピュラベース損傷検知と言う新しい異常検知手法の提案が可能と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
H28年度の研究結果と課題を踏まえて,最終年度の研究推進について以下の研究目標の達成を目指す. 前年度まで提案するコピュラベースの信頼性評価手法の効率化について検討を行う.前年度までは,コピュラベース異常診断および信頼性評価手法の提案やモニタリングデータによる妥当性検討に重みをおいたが,多次元統計データを利用するコピュラベースの信頼性評価手法の実用化のためには,意思決定に大きな影響を及ぼす因子と無視できる因子を評価し,必要最小限の因子のみを考慮できる効率のいいコピュラベースの信頼性評価手法の完成を目指す.さらに成果はICOSSAR2017など国内・外の学術会議にて発表する予定である.またEngineering Structureなど権威ある学術雑誌にも投稿する計画である.
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