最終年度は、逆スピンホール効果を利用した金属ガラス薄膜の構造変化のモニタリング手法を開発した。特に、金属ガラスの結晶化プロセスに関して、逆スピンホール効果により検出する方法を示した。結晶化は金属ガラスにとって最も重要な構造変化であり、これはガラス状態に関する特性の劣化を示すものである。特にスパッタリング法で作製するような超薄膜の場合では、金属ガラス相の結晶化に関する構造変化をリアルタイムに観察することは、熱分析の代わりとなる汎用性のあるプローブがないため困難となる。また通常、ガラス転移温度および結晶化温度は、超薄膜の場合、試料表面での高い原子移動度に起因して、バルク試料のそれよりもはるかに低くなることが知られている。本研究では、金-シリコン2元系金属ガラスにおける逆スピンホール効果を用いて結晶化プロセスを敏感にモニターすることができており、結晶化相よりも金属ガラス相の方がはるかに大きな値を示すことが明らかとなった。また、電気抵抗と比較して、逆スピンホール電圧の変動量は約1桁大きく、これは電子スピンプローブの感度が極めて高いことを示している。本研究によって、スピントロニクスデバイスに応用できるようなスピン電荷変換効率の高い新規な準安定相を設計する新たな道が開かれ、さらに逆スピンホール効果を新たなプローブとして金属ガラスにおける様々な構造相転移挙動を検出することが可能となることが期待される。
|