研究課題
植物の細胞壁に含まれる糖鎖を介した細胞間シグナリングは、極めて重要と想定されてきたにも関わらず、これまで全く未開拓であった。そこで、当研究室で新たに発見された、植物の受精を促進する生理活性糖であるAMOR(化学合成した末端の2糖「メチルグルクロノシルガラクトース」だけで活性をもつ)に着眼し、植物において糖と相互作用する分子を見出す技術の構築を目指す。本年度は、AMORの発見に関する原著論文がCurrent Biology誌に受理された。研究分担者のSankaranarayananも研究開始早々にAMORがLURE1ペプチドに対する花粉管の応答能を確認する実験に貢献し、著者として名を連ねた。また以下に述べるように、順調に研究計画を遂行し、本研究は極めて良好に開始することができたと言える。
1: 当初の計画以上に進展している
計画に基づき、活性をもつ合成2糖(メチルグルクロノシルガラクトース)を起点に、AMORの類似体を多数合成することに成功した。合成については、当研究機関の有機合成化学者の協力をもとで進めた。受精率を定量評価することで、構造活性相関を明らかにするとともに、一般にアラビノガラクタン糖鎖の性質として知られる花粉管の発芽や伸長促進に対する効果を調べた。その結果、受精能付与に対するメチルグルクロノシルガラクトースの構造特異性が明らかとなった。また、メチル基が糖鎖上の部位特異的に必要であることや、グルクロン酸が他の糖とβ結合することが活性に重要であることが示された。さらに、生体内でのAMOR糖鎖合成に関わる酵素の候補をトレニアおよびシロイヌナズナでリスト化し、シロイヌナズナで多重変異体を用いた表現型解析を進めた。その結果、メチルグルクロン酸修飾が、植物生殖の様々な過程で働いていることが示唆された。また、計画通りに、関連分野の大きな国際会議において、糖鎖研究の情報収集にもつとめた。
今後は予定通りに、AMORの活性を維持したまま、AMORに蛍光分子を付加するのに適した部位を探索することを進める。これにより、AMORに必要なリンカーを付加する戦略を練るとともに、共同研究により合成を進める。また、今年度に準備を進めたAMOR糖鎖合成酵素候補の突然変異体を用いた、AMORを含む糖鎖のプロファイリングを行い、合成酵素の同定ならびに、その欠失変異体の表現型を明らかにする。論文発表にそなえ、海外研究者との研究打ち合わせも進める。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Current Biology
巻: 26 ページ: 1091-1097
http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2016.02.040