研究実績の概要 |
これまで抗不安薬や抗うつ薬のスクリーニングにマウス等のげっ歯類が使用され行動学的評価法の基盤が確立している。一方、ショウジョウバエは、神経回路研究のモデル生物として優れているが、行動学的評価法の基盤が確立されていない。そこで我々は、まず、ショウジョウバエを用いた簡便な行動学的解析法を確立した。具体的には、ショウジョウバエの飼育バイアルから餌を取り除いた後に、サンプルを溶解した水を自由摂取させ、96穴マイクロプレートに移動し、その行動をビデオカメラで撮影し、一定時間の行動を測定する。Grooming, Walking, No movementの3つに状態に分類し、それぞれの時間を合計した。 この新しく確立したショウジョウバエの行動学的評価法を用いて、各種ペプチドの投与効果を検討した。その結果、大豆の主要な貯蔵種子タンパク質であるβコングリシニン(CG)の酵素消化により生成する10残基ペプチドβCG(323-333)が、後肢のグルーミングを促進することが明らかとなった。これまで、後肢のグルーミングにはドーパミンD1受容体の活性化が関与していることが報告されている。そこで、βCG(323-333)の後肢グルーミング促進作用にD1受容体が関与しているかD1ノックアウトハエを用いて検討した。その結果、野生型において認められるβCG(323-333)による後肢グルーミング促進作用は、D1ノックアウトハエでは消失した。したがって、βCG(323-333)による後肢グルーミング促進作用には、D1受容体の活性化が関与していることが明らかとなった。βCG(323-333)は、D1受容体に直接結合しないことから、内因性のドーパミン放出を亢進し、ドーパミンD1受容体を活性化していると考えられる。これらの研究成果の一部は国際英文誌Biochemical and Biophysical Research Communications (Karim et al. 2018; 499(3): 454-458)に発表した。
|