本年度は、特別研究員Ahmed Z Balboura博士が別ポストへの採用のため、研究機期間が短縮たため、昨年度の研究の継続に注力した。特に、本研究で期待される凍結保存後のウシ胚の生存性向上への効果に関しては、前年度に明らかとなったガラス化保存胚の生存性向上へのカテプシン阻害剤の効果の検証を行い、カテプシンB阻害剤であるe-64および、カテプシンK阻害剤であるOdanactib、それぞれが凍結後の生存性への向上効果が確認された。実際にガラス化処理後の胚盤胞において、カテプシンBの活性を詳細に観察したところ、無処理胚と比べてガラス化処理胚では、胚盤胞外周を構成し、胎盤に分化する栄養膜細胞(TE)において、胚の内部に位置し、将来胎児に分化する内部細胞塊(ICM)と比べてカテプシン活性の増加が検出された。同時に、TUNEL染色によるDNA損傷の検出では、TE細胞でのDNA損傷の増加が確認された。また、同時にアポトーシス関連遺伝子であるcaspase9の有意な増加が確認された。これらのことから、ガラス化処理を含む凍結処理によって保存液に直接接する栄養膜細胞への物理的な障害が細胞への損傷を直接的に引き起こし、それを受けた細胞内のカテプシンの活性化-その下流のシグナルとして知られているアポトーシスの経路が活性化することが示唆された。今後は、ICMとTEの異なった細胞における応答性への際の研究が今後、必要である。
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