研究課題/領域番号 |
15F15408
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂口 昌徳 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 准教授 (60407088)
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研究分担者 |
KUMAR DEEPENDRA 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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キーワード | 睡眠 / 記憶 / 恐怖記憶 |
研究実績の概要 |
これまで、主にヒトを対象とした研究で、学習に関与した刺激を睡眠中に暴露した場合、1.レム睡眠もしくは2.ノンレム睡眠時の何れの期間に暴露した場合に、3. 記憶が強化されるという報告と、全く逆に4.減弱される、という報告がなされていた。最も有力と考えられるヒトを対象とした研究では、ノンレム睡眠中に学習中に用いた匂いを嗅がせると記憶が増強するという報告がなされている(Rasch et al., Science, 2007)。しかし、げっ歯類で海馬依存性の記憶については、本件を明解に比較検討した報告はなされていなかった。そこで、今回、海馬依存性の記憶課題と考えられているトレース恐怖条件付け記憶課題を用いてこれを検討することにした。トレース条件付け記憶課題では、マウスは電気ショック箱に入れられた後、それ自体では恐怖反応を惹起しない音を聞かせる。この音が鳴り止んだ一定期間の後、足に軽い電気ショックを与える。マウスが、音と電気ショックを結びつければ、次の日に音を聞かせただけで恐怖反応(すくみ)を示すようになる。今回、レム睡眠とノンレム睡眠それぞれの時期に、学習時に用いた音を暴露することで、その記憶における機能を検討した。すると驚くべきことに、ノンレム睡眠中に音を聞かせたグループでは、その後の記憶テストの際に恐怖反応が減弱することが明らかとなった。また、その際に非常にマイナーな差を除いて、睡眠自身には大きな影響が認められなかった。本研究は、国際誌に論文発表した(Purple et a., Sci. Rep., 2017)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前記の様に、国際誌に論文発表を行う等、順調に研究が進んでいると考えられる。また、国内外の研究会に頻繁に招聘を受けており、当研究の認知度も高まっていると感じられる。現在、睡眠中の記憶固定化のメカニズムとして新生ニューロンの役割りを、光遺伝学を中心に最先端の技術を用いて検討中である。特定の睡眠時期における光照射の技術については、リアルタイムで実験を行った後、オフラインでも検証を行った所、Sensitivity, Precision, Speicifityいずれにおいても95%以上のスコアを得ている。また、特にレム睡眠やノンレム睡眠における機能比較について、これまでターゲットとしていた新生ニューロンの週齢を、別の時期に変更したり、既に海馬歯状回に存在する顆粒細胞との機能比較を行う、等の検討を進めている。これらの検討する中で、次々と新しい発見が相次いでる。特に新生ニューロンが睡眠中の記憶固定化に果たす役割りは、その発達段階に特異的な時期があることを見出したことは、今後の研究の方向を決定づける上でも意義が大きいものと考えられる。さらに、必要な技術について、協力を得るべく、学内外との新しい共同研究を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
特に、睡眠中の新生ニューロンの興奮についてはin vivo環境におけるイメージングが必要となる。現在Arc遺伝子のin situ hybridizationを元にしたCAT-FISH法を用いた技術を用いているが、それ以外の方法として、リアルタイムで神経の興奮のイメージングについて検討を開始しており、今後はこの技術の確立を急ぎより詳細な検討を行えるものと期待している。また、睡眠中の新生ニューロンがどの様に記憶固定化に重要な役割りを果たすか、という問について分子メカニズムにおける検討をTranscriptomeやMetaoblomeの技術を使って明らかにすることを検討している。さらに、コネクトームの手法を応用し、特定の時期の新生ニューロンがどのような機能的神経回路網を形成しているかという点についても検討して行きたいと考えている。次年度中に一定の成果がまとまると予想され、現在国際誌への投稿準備を進めている。
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