研究課題/領域番号 |
15F15709
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
颯田 葉子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20222010)
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研究分担者 |
LAU QUINTIN 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 多型解析 / MHC / トランスクリプトーム解析 / 変態 |
研究実績の概要 |
ニホンアカガエルを用いて免疫関連遺伝子群の進化学的特性を塩基配列比較及び遺伝子発現のレベルの比較により調べる。ニホンアカガエルは日本列島に広く分布し、移入種であるアメリカウシガエルと生息環境を共有している。特に、アカガエルはツボカビ菌に抵抗性であるが、ウシガエルは感染性である。本研究課題では以下の3点に焦点を当てて、ニホンアカガエルの免疫系の進化学的特性を調べ両生類の免疫系の進化を明らかにする。本年度は次の3点の成果を得た。
1)アカガエル、ヤマアカガエル、タゴガエルの3種について、各種7個体、計21個体についてMHC classI 遺伝子群exon 2からexon 4までをPCRで増幅し、その後クローニングと塩基配列決定を行った。その結果、21個体から60の異なる配列を同定した。これらの塩基配列を解析し、3種のカエルのMHC class I遺伝子群には明らかな平衡選択が働いていることを示し、またその多型性形成には、遺伝子重複と遺伝的組換えが関与していることを示した。この結果はこれまでに報告されている他のアカガエル科の集団の特性と同様であった。しかし、日本産の3種はいずれも、これまでに報告されているアカガエル科の集団と比較して同義置換座位での多様性が低いことが特徴的であった。これは、日本産の両生類のたどった集団の歴史を反映している可能性が示唆された。現在この結果は国際誌に投稿中である。 2)上記の3種について、成体の脾臓、血液、皮膚および、オタマジャクシからRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を行うため、それらのRNAの塩基配列をNGSを用いて決定した。 3)ヤマアカガエルの卵を野外から採集し、実験室で発生させ、様々な発生段階での胚・オタマジャクシからRNAを抽出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本産の3種のカエル、アカガエル、ヤマアカガエル、タゴガエルについてMHCclassI遺伝子群の多型性を調査できたこと、3種の血液、脾臓、皮膚のトランスクリプトーム解析のためのRNA-seqを行えたこと、さらに、ヤマアカガエルの発生段階の異なる胚・オタマジャクシからRNAを抽出できたことは、当初の予定どうりで概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、下記の3点に焦点を当てて研究を遂行する。 1)トランスクリプトーム解析:平成27年度に得たNGSの結果を用いる。特に、アカガエル・ヤマアカガエル・タゴガエルの成体のトランスクリプトームを種間、異なる組織間(血液・脾臓・皮膚)で比較し発現の異なる免疫関連遺伝子の同定を行う。また、オタマジャクシのトランスクリプトームとの比較で、これらの免疫関連遺伝子の発現が発生過程、特に変態に伴う生息環境の変化によってどのように変化するかを調べる。 2)MHC class II遺伝子とその他の免疫関連遺伝子の多型解析:トランスクリプトーム解析の結果からMHC class II 遺伝子群を増幅できるPCR primerを設計し、平成27年度にMHC class I 遺伝子群についての解析と同様に、アカガエル、ヤマアカガエル、タゴガエルの3種について集団遺伝学的・分子進化学的解析を行う。また同時に、自然免疫系に関連する遺伝子群としてToll Like Receptor (TLR)遺伝子群についても同様の多様性解析を行う。さらに、この結果をオーストラリア産のカエルでの多型と比較することも検討している。 3)発生過程での免疫関連遺伝子の発現変化の解析:平成27年度に単離した様々な発生段階の胚・オタマジャクシのRNAを用いて免疫関連遺伝子の発現変化を解析する。解析する遺伝子は、上記のトランスクリプトーム解析でオタマジャクシから成体になる変態に伴い発現量が明らかに変化する遺伝子に絞り込んで行う。
以上の解析結果をもとに複数の論文を執筆することを予定している。
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