本研究では、富栄養化した湖沼における藍藻類由来の毒素であるミクロシスチン-LR(Microcystin-LR)を対象として、そのモニタリングや定量評価の手法について検討を行った。従来の液クロマトグラフによるMicrocystin-LR検出や定量分析法のような、時間がかかり、高価で、分析技能を要求する方法に代わって、新規なグラフェンフィルム(GF)複合電極バイオセンサを開発した。環境水試料中でのMicrocystin -LRに特異的なモノクローナル抗体のインキュベーション、そして、Microcystin -LRを固定化したGF電極センサの試料へ浸漬という2段階の検出反応を介して、GF電極センサの電気化学インピーダンス測定を介して濃度測定を行うものである。 開発したセンサは、Microcystin-LRの広い濃度範囲、すなわち0.05~100μg/ Lにわたって濃度と電気化学インピーダンスの間に優れた線形相関関係(R2 = 0.99)が得られた。このセンサは、世界保健機関(WHO)のMicrocystin-LR暫定ガイドライン濃度(すなわち1μg/ L)よりもはるかに低い濃度レベルで十分な感度を有しており、Microcystin-LRを特異的に検出することができる。 この感度の良さは、グラフェン膜の大きな活性表面積および高い伝導率によって達成でき、効率的な電荷移動プロセスに起因しているものと考えられる。また、特異性は、Microcystin -LRに特異的なモノクローナル抗体を試料水に十分量を添加してインキュベーションする手順を加えたことによる。センサに結合させたMicrocystinがインキュベーション試料に残存するモノクローナル抗体量に比例して共役的に結合することにより、センサの電気化学インピーダンスの変化として測定する方式である。したがって、環境水中の他の潜在的な干渉物質の影響を受けにくいセンサであり、現場での検出・測定にも応用する可能性を秘めている。
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