研究課題/領域番号 |
15F15753
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
上 真一 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (80116540)
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研究分担者 |
KOGOVSEK TJASA 広島大学, 生物圏科学研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-10-09 – 2017-03-31
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キーワード | 水産学 / クラゲ類 / プランクトン / 生理・生態 |
研究実績の概要 |
今年度はアカクラゲの個体群動態の調査と、本種の生理生態的な特性解明を行い、以下の中間結果を得た。 1)個体群動態に関する調査:本種が多く出現する山口県下関市の関門海峡において、定期的な採集を行った。本種のエフィラは2015年12月28日に初めて採集され、2016年1月30日まで継続して出現した。このことから、本種のエフィラの放出時期は冬季に限定されることが判明した。また1月30日以降はメデューサ個体が出現し、それらの体重は3月2日までほぼ指数関数的に増大し、以後成長速度は低下傾向を示した。厳冬期における成長速度が高いことが、本種の特徴である。また、傘径と体重との関係が高い相関係数を伴う回帰式で表示されたことから、今後は傘径測定を行うことで、体重の推定が可能となる。 2)生理生態的特性の解明:一定水温(12℃)条件下で異なる体重のアカクラゲの呼吸速度を測定し、呼吸速度と体重との関係を求めた。個体当りの呼吸速度は体重増加につれて直線的に上昇したことから、本種の単位体重当りの呼吸速度は体重の影響を受けないことが明らかとなった。今後は体重が明らかになれば、呼吸速度が推定でき、さらに最小餌要求量の推定が可能となる。本種の食性を解明するために、捕獲直後の餌を保有する口腕部と胃腔が存在する傘部に分けてホルマリン固定し、両者に存在する餌生物の査定と計数を行う。また、アカクラゲと同時に出現する主要動物プランクトン、魚類などの安定同位体を測定することで、各分類群の栄養段階を明らかにし、餌ー捕食者関係を解明する。さらに、本種の性成熟について調査し、傘径10㎝以下の小型個体では性の判別が困難であるが、それ以上の大きさでは雌雄の判別が可能で、性比はほぼ1:1であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年9月から2016年3月までの約半年間に実施した調査内容から判断して、おおむね順調に推移していると見ている。クラゲ類はしばしば大発生したり、ほとんど発生しなかったりして、不安定な出現を示ことがあるが、調査海域に選定した関門海峡ではアカクラゲが安定的に出現しており、当初の予定通り、エフィラの出現開始からメデューサ個体群の消失に至るまで本種の季節的消長を捉えることが可能と考えている。採集と同時に行っている本種の生理生態的特性解明のための、呼吸速度測定、食性解明、成熟過程の解明など、ほぼ順調に進展している。 従来アカクラゲに関する研究例は希少であり、本種の基礎生物学的知見は極めて乏しいのが現状である。今回の調査において多くの新しい生理生態的な知見を得ることができ、本種が消滅する夏季まで調査を継続することで、より多くの成果を得ることが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
アカクラゲの定期採集調査は2016年7月までには終了する予定で、その後は採集資料の分析や測定を行う。アカクラゲの季節的消長、生理生態的特性に関する一連のデータを得た上で、貧栄養化傾向にある現在の瀬戸内海において何故本種がしばしば大発生するのか、その原因を様々な観点から追及する。また、本種が大発生することでミズクラゲなどの他のクラゲ類に及ぼすインパクトについても追求する。 有明海では食用クラゲであるビゼンクラゲが最近5年間大発生して、この場合には有用漁業資源として商業漁獲されている。しかし、本種の大発生の原因は未解明であるので、今夏以降はビゼンクラゲを対象として調査を行う。そのためにはまずポリプの作出が必要である。その上で十分量のエフィラを確保し、エフィラの飢餓耐性に関し実験的に調査する。さらに、ミズクラゲの飢餓耐性に関する実験的調査は既に終了しており、中海本庄工区内でのミズクラゲのエフィラ期から若いメデューサ期までの個体群動態に関するデータを得ているので、どの時期に減耗が顕著となるかなど、捕食者の影響を調査して、その原因を追及する。
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