研究課題/領域番号 |
15F15909
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
筒井 和義 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (20163842)
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研究分担者 |
SON YOU LEE 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 生殖腺刺激ホルモン放出抑制ホルモン(GnIH) / 甲状腺ホルモン / 甲状腺ホルモン受容体 / 生殖制御機構 |
研究実績の概要 |
視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出抑制ホルモン(GnIH)は、下垂体の生殖腺刺激ホルモン産生細胞と視床下部のGnRHニューロンに対し抑制的に働く。さらに、GnRHの分泌を促進するKissニューロンにもGnIHの神経線維が投射していることから、GnIHは生殖制御機構の上位中枢として働くと考えられる。一方、甲状腺ホルモンは発生・成長・代謝に不可欠なホルモンだが、生殖線の発達と機能の制御にも関与しており、甲状腺ホルモン機能異常は思春期発来などに影響を与えることが知られている。本研究では、視床下部-下垂体-生殖腺軸の重要な抑制因子であるGnIHの発現が甲状腺ホルモンにより直接制御される可能性について検討した。
研究項目1.甲状腺ホルモンによるGnIH発現の制御機構:最初に、GnIHニューロンにおける甲状腺ホルモン受容体(TR)の発現を確認する。次に、GnIHニューロン細胞株(rHypoE-23)とマウス視床下部の培養系を用い、甲状腺ホルモンの処理によるGnIHの発現変動を調べる。甲状腺ホルモンによるGnIH発現変動に関する分子機構を明らかにするために、GnIHのプロモーターアッセイやエピジェネティクス解析、膜受容体を介したシグナル伝達系などを検討する。
研究項目2.甲状腺機能異常による性成熟障害におけるGnIHニューロンの役割の解明:甲状腺機能低下(hypothyroidism, HypoT)と甲状腺機能亢進(hyperthyroidism, HyperT)による生殖機能異常が数多く報告されているが、思春期発来に及ぼす影響については相反する結果が出ており、その制御機構は明らかになっていない。研究項目2では、幼若期から青年期になるまでHypoTとHyperTを誘導させたモデルマウスを用い、異常レベルの甲状腺ホルモンが思春期発来とGnIHの発現に及ぼす影響を調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2015年度は、「研究項目1.甲状腺ホルモンによるGnIH発現の制御機構」の解明を目指して、GnIHニューロン細胞株(rHypoE-23)とマウスの視床下部培養系を利用した、分子・組織レベルでの研究を中心的に行った。さらに、「研究項目2.甲状腺機能異常による性成熟障害におけるGnIHニューロンの役割の解明」に必要な甲状腺機能低下・甲状腺機能亢進のモデルマウスを作製するための予備実験を行った。研究は順調に進んでおり、以下の結果が得られた。
1.Expression of TR in GnIH neuron:GnIHニューロンにおける甲状腺ホルモントランスポーター(Mct8, Mct10)及び、甲状腺ホルモン受容体(TRα, TRβ)の発現を明らかにした。 2.Inhibitory effect of thyroid hormone on GnIH expression:甲状腺ホルモンがGnIH発現を減少させることを明らかにした。 3.Inhibitory mechanism of GnIH expression by thyroid hormone:GnIHのプロモーターアッセイを行った結果、GnIHのプロモーター領域に存在するTR結合配列(TRE)は、甲状腺ホルモンより発現が増加する“positive TRE”ではないことが分かった。また、甲状腺ホルモンはGnIHニューロンにおいて、cAMP、Ca2+、ERKなどの膜受容体を介したシグナル伝達系を変化させないことが分かった。 4.Induction of hypothyroidism and hyperthyroidism:生後20日齢のマウスへpropylthiouracil(PTU)、thyroxine(T4)を2週間経口投与することにより、甲状腺機能低下、甲状腺機能亢進を誘導させることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
1.Epigenetic regulation by thyroid hormone on GnIH expression 現在までの研究成果により、GnIHニューロンには甲状腺ホルモン受容体が存在することと、甲状腺ホルモンはGnIH遺伝子発現を減少させることが分かった。今後は、甲状腺ホルモンによるGnIH発現抑制の分子機構を明らかにするために、甲状腺ホルモンがGnIHプロモーター領域のヒストン修飾(アセチル化/リン酸化/メチル化など)を変化させる可能性を調べるエピジェネティクス解析を行う予定である。
2.Effect of hypothyroidism and hyperthyroidism on puberty onset and HPG axis 甲状腺機能低下(hypothyroidism, HypoT)と甲状腺機能亢進(hyperthyroidism, HyperT)状態を誘導させた雌マウスを用いて、体重測定、思春期徴候(膣開口日)と性周期の観察を行い、異常レベルの甲状腺ホルモンが思春期発来に及ぼす影響を明らかにする。さらに、HypoTとHyperTマウスにおいて、生殖を制御する視床下部ホルモン(GnIH, GnRH, Kiss)や下垂体ホルモン(LH, FSH)、性ステロイドホルモン(エストロゲン)の発現変動を調べることにより、「視床下部-下垂体-性腺軸」の生殖制御に関する甲状腺ホルモンの作用機構を明らかにする。
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