研究概要 |
本研究は、フォトニック結晶による自在な光子制御を目指す新しい学問領域「フォトニック結晶工学」を深く追求するとともに、各種デバイスへの展開を図ることを目的とする.本目的達成に向け,a)高精度試料作製,b)構造揺らぎの影響の理論的・実験的検討,c)各種の光子操作とその効率の最大化,d)欠陥エンジニアの高度化と新構造(ヘテロ構造)の導入・発展,e)3次元欠陥加工とその効果の検討,e)光パルス入射による動的特性評価,f)非線形現象の導入と高機能化,の順に系統的に研究を進める.本年度は,主にa)-c)の課題に沿って研究を進め,以下の成果を得た. 1.まず高精度の試料作製を目指し、本補助金で恒温システムを導入し電子線描画プロセスの安定化・高精度化を図った.さらにレジスト膜厚や電子ビームの加速電圧・ドーズ量等の詳細な条件の最適化を図った。その結果、従来に比べ,1桁以上高い精度での試料作製が可能となった。 2.構造揺らぎの影響を理論・実験的に検討した.結晶や欠陥部の上下非対称性(空気格子の側壁の非垂直性や、基板構造の非対称性)が,導波損失増大や共振器のQ値低減に深く関わることを見出した.特に導波路の損失には「TMスラブライン」が大きな影響を与えることを初めて示した. 3.人為的欠陥導入による光子操作効率の実験的評価を行った.点欠陥と線欠陥を組み合わせた基本構造において,線欠陥を導波する光子は,点欠陥と線欠陥の結合と点欠陥と自由空間の結合が等しいときに最大効率(50%)で自由空間へ放射(ドロップ)されることを実験的に明らかにした。 4.上述のドロップの逆過程を実証するために自由空間から光子を点欠陥に照射する実験を行い、点欠陥により自由空間を伝播する光子の捕獲が可能であることを示した。これにより本構造がアッド動作へも展開可能な超小型光デバイスへ応用できることを示した。 上記が本年度の研究目標であったが,本年度は,さらに進んだ研究展開にも成功し,目標に挙げたd)の欠陥エンジニアリングの高度化と新構造に関する研究にも踏み込み,世界最大のQ値(45,000)をもつ光ナノ共振器の実現,および1.25nmという極めて高い精度でのヘテロ構造デバイスの実現に成功した(これらの成果は,様々な雑誌や新聞等で報道された).また次年度以降の,より高度な欠陥エンジニアリングの研究推准のために,ナノ構造マニュピレーションシステムの導入・立ち上げを行った.
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