研究概要 |
哺乳動物において小胞体ストレスは、3つのユビキタスな小胞体膜貫通型タンパク質(IRE1,PERK,ATF6)によって感知され、情報伝達される。IRE1経路とPERK経路については既にノックアウトマウスが作製され、その生理的意義や役割がかなりよく解析されている。本研究によってATF6αおよびATF6βのノックアウトマウスが解析されたことで、3つの主要経路についてノックアウトマウスが出揃った。 ATF6αおよびATF6βのダブルノックアウトは極めて早い時期に(胎生8.5日以前)胎生致死となった。これは上記情報伝達分子の中で最も早い致死の表現型である。ATF6αは、小胞体シャペロンの転写誘導だけでなく、小胞体関連分解構成因子の転写誘導にも必要であった。これまでPERKのノックアウトが小胞体シャペロンの発現量を低下させることが報告されていたが、本研究によってPERKのノックアウトがATF6の活性化に影響を及ぼすことを明らかにした。以前米国のグループが、ATF6αおよびATF6βのRNA干渉を行っても何も影響が出ないと報告していたが、これが誤りであり、むしろ3つ主要経路のうちATF6経路が最も重要であることを証明することができた。 IRE1経路やPERK経路とは異なり、ATF6はそれ自身で小胞体ストレスの感知から核内での転写活性化まで実行する。ATF6の活性化機構を解析し、認識部位の同定を通してエスコートタンパク質の存在を示すとともにジスルフィド結合の還元(酸化的環境の小胞体で起こる)という極めて興味深い発見をした。 ATF6が小胞体におけるタンパク質の品質管理に関与するタンパク質の転写制御に特化した転写因子であり、哺乳動物のような高等動物になって初めてUPRにおける機能を獲得したという本研究の成果は、小胞体ストレス応答の進化を考える上で極めて貴重な資料となった。
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