研究概要 |
生体を構成する種々の細胞は、その固有の機能を発揮するために極性を獲得する。本研究では、神経細胞及び繊維芽細胞の細胞極性を制御する細胞外シグナルやその伝達機構を明らかにすることを目的とする。1)RhoファミリーGTP結合蛋白質の標的蛋白質であるPAR複合体(PAR-3、PAR-6、atypical protein kinase C(aPKC))の神経軸索への局在化は、神経細胞の極性形成に重要であることが知られている。しかしながら、PAR複合体の軸索への局在化機構は不明であった。私共はPAR複合体の局在化機構として、PAR-3とキネシンモーターの一つKinesin-2(KIF3A)の直接結合が重要である事を見出した(Nishimura et al.,Nature Cell Biol.,2004)。2)PAR複合体の上流シグナルの探索を行い、神経突起の伸長に先立ち神経突起のうちの1本でPI3-kinaseの産物であるPIP_3が濃縮する事を明らかにした。(Menager et al.,J.Neurochem.,2004)。また、神経突起の伸長を引き起こすラミニンなどの細胞外基質との接着により、PIP3が局所的に生産されることを明らかにした。従って、細胞外基質-PI3-Kinase-PIP_3-RhoファミリーGTP結合蛋白質-PAR複合体の活性化という経路により、神経細胞の極性が制御されているものと考えられた。3)私共はこれまでに、collapsin response mediator protein-2 (CRMP-2)が神経細胞の軸索と樹状突起の運命決定に重要な役割を果たすことを明らかにしている。しかしながら、CRMP-2の活性制御機構は不明であった。私共は、GSK-3βがCRMP-2をリン酸化することにより、その活性を調節して、神経極性を制御することを明らかにした(Yoshimura et al.,Cell,2005)4)APCは特定の細胞表層に濃縮し、微小管の安定化や細胞運動に寄与すると考えられていたが、どのようにして特定の細胞表層にアンカーされるかは不明であった。私共は、RhoファミリーGTP結合蛋白質(Rac1/Cdc42),IQGAP1とAPCの相互作用の解析を行った。その結果、APCがIQGAP1を介してアクチン繊維上にアンカーすることを見出した。Rac1/Cdc42/IQGAP1/APC複合体は、伸長する微小管のプラス端のみに濃縮することが知られているCLIP-170と結合した。これらの複合体は微小管を誘導、捕捉して細胞の極性と運動を制御することを明らかにした(Watanabe et al.,Dev.Cell,2004)。 本年度の成果は、細胞の極性形成機構を理解する上で極めて重要である。従って、本年度の研究計画はほぼ達成することができたと考えている。
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