【研究目的】 本研究は、小学校音楽科における我が国の伝統音楽の指導について、近代日本の音声広告芸能に見られる音楽構成法に基づく指導法開発を試み、この教材がもたらす学びの特質を明らかにするものである。 【研究成果】 伝統音楽を「いま・ここ」を生きる子どもの「音楽する」経験として学ばせるために、音声広告芸能に着眼することは、きわめて有効であったと考える。現在の音楽科では、伝統を学ばせることが、むしろ過去と現在のつながりを断絶させている側面がある。しかし、音声広告という路上の芸能を教材化することで、子どもが伝統音楽を「行為」として捉え直すことが分かった。また次に挙げる伝統音楽の特徴を学ぶ上で有効であることも明らかとなった。 第1に、和洋を問わず多様な打楽器を演奏者の意図で組み合わせることや、様々なバチの使用によって、日本の音色の嗜好性が学べること。 第2に、旋律の演奏が単旋律、もしくは複数の旋律がずれを保持したまま並行的に移行するヘテロフォニーで演奏される場合が多く、西洋の機能和声を前提としない旋律法が経験できること。 第3に、演奏する場に応じた臨機応変な口上や選曲がなされるため、作品ありきではない、人と人をつなぐ音楽の在り方が学べること。 これらのことは、現在の学習指導要領が求める音楽的な活用力をはぐくむことにもつながり、鑑賞領域での扱いに終始しがちな伝統音楽の学習を、より実践的に扱っていくための方法論となると考える。
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