1 目的 第一に、科学的実験に基づいて、遺跡から出土する石器石材が熱変化(被熱)したことを裏付ける痕跡の認定基準を構築する。第二に、この基準を旧石器時代の遺跡に応用して、集落のどこで火が焚かれていたのかを推定することを目的とした。本研究は、大学の文学部に属する考古学研究室で行われないような実験的手法を用いて考古資料の認識水準を向上させようとする点に特色があり、そのことによって従来の旧石器時代の集落研究に一石を投じる成果が期待できるという点に意義がある。 2 方法 第一の目的を達成するために、1)電気炉で加熱実験試料を作成した。また、第二の口的を果たすために、2)収蔵施設で考古資料の全点観察を行った。 3 成果 (1)実験試料 石器の色調変化やヒビが、被熱痕跡であるかどうかを生成過程から明らかにするため、電気炉で温度一定の条件をつくりだし、時間経過と石器石材の表面変化の関係を検討した。具体的には、対象とする多数種類(黒曜岩・安山岩・頁岩・瑪瑙・凝灰岩・チャート・シルト岩・サヌカイト・流紋岩など)の岩石片を、木灰が入ったるつぼに半分まで埋め込み、温度と加熱時間を変数とする試料を作成し、携帯顕微鏡下で観察した。 (2)考古資料 資料調査は、北海道と、青森県・東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・栃木県・長野県・静岡県・愛知県・長崎県・鹿児島県で実施した。この結果、北海道と本州の複数遺跡で、炉跡の存在を暗示する特徴的な被熱石器の出土傾向を確認し、正確な被熱石器の点数と分布範囲を手掛かりにして集落の「隠された炉跡」を推定しようとする試みが有効であることを確信した。
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