研究目的 廃水処理におけるセレンの無毒化を行う処理方法に、低コストが期待され、二次汚染の心配がないバイオレメディエーションに着目した。この方法は微生物により、セレン酸および亜セレン酸を毒性の弱い元素態セレンに還元するものである。本研究ではこのうち比較的反応が速い元素態セレンへの異化還元を対象として、生物処理について検討を行い、実排水である石炭火力発電所における脱硫廃水に含まれるセレンの除去についてアプローチする。 研究実施計画および研究結果 セレン還元菌の入手が困難なことから、活性汚泥を元汚泥として亜セレン酸とセレン酸で馴養(純粋培養)することにより、低コストで2種類のセレン還元汚泥を得る。この汚泥を用いてセレンの無毒化を行う処理方法の検討を行った。 ・セレン還元汚泥による温度依存性、pH依存性の検討 馴養で得られた2種類の汚泥を使用したセレン還元反応は0次的還元反応であることが判明した。還元速度の温度依存性についてアレニウスプロットで整理した結果、いずれも良好な直線が得られた。求められた活性化エネルギーは亜セレン酸の還元では約70kJ、セレン酸の還元では約40kJを示した。 pH依存性については、亜セレン酸還元においてはpH≒7.2付近で最大値を示すベル型の依存性が得られた。一方、セレン酸還元においては、亜セレン酸還元と異なり酸性域で速度が上昇する傾向を示し、ベル型の依存性は見られなかった。温度依存性ならびにpH依存性の結果から、亜セレン酸とセレン酸の還元挙動に差があるため、それぞれの還元に関わる菌体が異なる可能性も示唆された。 ・セレン還元汚泥による硝酸態窒素共存時のセレン還元挙動の検討 Se(VI)の還元は硝酸態窒による阻害を受けずに進行した。Se(VI)汚泥によるSe(IV)の還元は硝酸態窒濃度が高いほど影響を受け、20mg-N/ℓ共存時にはほぼ完全にSe(IV)の還元反応が停止した。これらより、硝酸態窒素共存時の亜セレン酸とセレン酸の還元阻害の受け方の違いは、馴養時に使用した溶解性セレンの違いによってもたらされたものと考えられる。
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