研究実績の概要 |
グレビーシマウマ(Equus grevyi)は乱獲等で個体数が減少し, IUCNレッドリストの絶滅危惧種, ワシントン条約の附属書Ⅰ表に指定されており, 野生下・飼育下を含め早急な保全プログラムの作成が必要である。飼育下では特異的なストレス要因が存在し, これらの物理的・心理的ストレスは動物に大きな影響を与えることが知られている。そのため, 個体のストレスレベルを継時的な測定は, ストレス要因の特定に有用であると考えられる。また, ストレスに対する感受性は個体により大きく異なり, 遺伝的要因の関与が示唆されている。各個体のストレスへの反応性の把握は, 個体に適した飼育方法の開発に有用である。そこで本調査では, グレビーシマウマの飼育下個体群の保全に資することを目的に, 以下の2点について調査した。 1. 糞中コルチゾール代謝物の測定及びストレス要因の特定する 2. ストレス反応関連遺伝子の解析を行い, コルチゾール濃度との関連性を解析する 糞中コルチゾールの測定では, 通常飼育時のホルモン濃度は通常管理時では極めて定値で, 測定間ごとに差が見られた。また明白なストレス要因と考えられる動物園間の移動前後においても明白な上昇が認められず, コルチコステロンにつても測定を試みたが同様の結果であった。グレビーシマウマにおいて今回の測定系では糞中コルチゾール代謝物はストレス指標としては有用でないと考えられ, 今後抗体を変更し, 再測定を試みるか, アミラーゼやクロモグラビンAなどを指標として利用できるか検討が必要であると考えられた。 ストレス反応関連遺伝子としてコルチゾール受容体遺伝子のエクソン領域を解析した。コルチゾール受容体遺伝子の第3エクソン部分にグレビーシマウマ個体間の同義置換多型が認められた。シマウマ3種間(ヤマシマウマ・サバンナシマウマ)におけるアンドロゲン受容体領域では, ウマ科動物の中で初めて繰り返し配列多型を検出した(研究の一部で, 助成金使用)。これらの多型はストレス反応に関与している可能性は考えられるが, 今回の調査では関連性を示すことはできなかった。遺伝子多型について本助成により塩基配列を大量に解読したため, 今後新たなストレス指標と遺伝子多型の関連性について調査を行う予定である。 今回抽出したDNAを利用し, 個体群管理の指標としてミトコンドリアDNAの解析を行った結果, 血統登録と遺伝解析の間で遺伝的多様性に不一致が認められた。本発見は希少動物の飼育下保全に極めて有用な情報になると思われる。
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