研究目的 近年、水稲栽培の現場では種子の温湯消毒の利用が増えている。しかし教育・研究機関においては利用があまり進んでいない。その理由として稲の温湯消毒に対する高温耐性の品種間差が大きいことが挙げられる。そのため多品種、少量栽培を行う試験研究の現場では発芽率の低下が認められ使いづらい。教育・研究機関において有機栽培に関する研究の増加や農薬の適正利用、環境に配慮した試験手法が求められている現在において温湯消毒の品種間差を解明することによりその利用を普及させていくことは重要である。 そこで本研究では、様々な形質の異なる稲品種(粳米品種、糯米品種、低アミロース米品種、酒米品種、有色素米品種、香り米品種、飼料用稲品種など)の温湯消毒に対する適性について調査し、基礎データを収集することを目的とする。 研究方法 1. 形質の異なる稲27品種の温湯消毒による発芽への影響について調査した。処理方法は無処理、一般的な方法である60℃・10分間浸漬、より高温の65℃・10分間浸漬の3処理とした。処理後、水道水で冷却し発芽試験に供した。発芽試験で発芽率、発芽勢、出芽率の目安として5mm以上発芽した割合について調査した。 2. 稲種子(種籾)の形状の違いが温湯処理後の発芽試験に及ぼす影響を調査するため、各品種の粒重、粒長、粒幅、粒厚を電子天秤、デジタルノギスを用いて調査した。 研究成果 温湯消毒が各品種の発芽率へ与える影響は粳米に関してはジャポニカ品種、インディカ品種による明確な差は認められなかった。従来からの見解のように糯品種は発芽率の低下がやや見られたがそれほど大きなものではなかった。その他の形質の違いによる差もほとんど認められなかった。その為、稲種子の形状の違いによる発芽率への影響も認められなかった。しかし発芽勢は温湯消毒処理により低下する傾向がみられ発芽速度の低下が最終的な出芽率の低下に繋がっているのではないかと示唆された。よって温湯消毒の影響の調査は発芽率ではなく、実際の出芽率に着目して調査する必要があることが明らかになった。
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