【目的】本研究では、伴侶動物医療における安全でより効果の高い免疫治療法の確立を目的として、結核菌抗原であるESAT-6の遺伝子を導入し、免疫反応を高めることによって腫瘍を収縮させることを検討した。 【方法】①最初に、担癌マウスモデルおいて、人工ベクターの三元複合体を用いたESAT-6遺伝子導入による腫瘍抑制効果を確認した後、②-1腫瘍組織への浸潤細胞を免疫染色によって同定し、また、②-2遺伝子導入腫瘍細胞から産生されるエクソソームによる抗腫瘍免疫の活性効果を検討し、腫瘍抑制効果のメカニズムを解明した。③さらに、その結果に基づき、ESAT-6遺伝子導入を用いた犬の自然発症がんに対する免疫治療を試みた。 【結果および考察】①C57BL/6 (B6)マウスの背側皮下に同系のB16メラノーマ細胞株を増殖させた後、ESAT-6(遺伝子)三元複合体あるいはコントロールとしてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を腫瘍内に注入したところ、ESAT-6三元複合体注入群のみ腫瘍が有意に縮小した。②-1 ESAT-6三元複合体注入群では、コントロールと比較して有意に多くの樹状細胞(DC)やTリンパ球の浸潤が認められた。②-2 ESAT-6遺伝子導入B16細胞の培養から回収したエクソソームをマウスの腫瘍内に注入したマウスでは、非導入細胞のエクソソームやPBSを注入したものに比べて、腫瘍の成長が有意に抑制され、ESAT-6抗原に対する免疫反応のみでなく、B16細胞に対する免疫反応も有意に高まっていた。これらの結果から、生体内の腫瘍にESAT-6遺伝子を導入することで、導入細胞から放出されるESAT-6抗原を含んだエクソソームによって腫瘍内のDCやTリンパ球などの免疫細胞が活性化されるため、非常に効果的な腫瘍成長抑制が得られるものと考えられた。そこで、ESAT-6遺伝子の導入に加え、DCを追加すれば、さらに高い効果を引き出せると考え、ESAT-6遺伝子導入とDCの併用により、イヌの副鼻腔腺癌転移リンパ節と乳癌を治療したところ、腫瘍の完全あるいは部分寛解を得られた。以上の結果から、目的である安全でより効果の高い免疫治療法を確立できたと思われる。
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