マメ科の一年生植物リョクトウは古くは中国漢代から熱を冷ます目的で用いられている生薬である。近年の研究により、リョクトウには免疫反応を調節する何らかの生理活性物質が含まれていると考えられ、その効果は種皮抽出物に含まれるビテキシン(イソフラボン類)やオイゲノール(フェノール酸)によるものと考えられてきた。本研究では、東アジア各地に由来するビテキシン含有量の異なる4種類のリョクトウを用いてリョクトウの免疫調節効果と生理活性物質を検討した。種皮抽出物がマクロファージからの炎症性メディエーター産生に与える影響を解析した結果、ビテキシン含有量と免疫調節効果に相関は見られず、未知の生理活性物質の存在が示唆された。次に、網羅的メタボローム及びプロテオーム統合解析を活用して種皮に含まれる新規生理活性物質候補の探索を行ったところ、二次代謝産物の生合成に関与する酵素群に加え、酸化還元や核酸・脂質代謝に関与するタンパク質群が優占的に検出された。さらに、リョクトウではAngiotensin-converting enzymeを抑制する作用のあるペプチドが免疫反応調節因子として同定されていることを念頭にタンパク質分解酵素の詳しい解析を行ったところ、全タンパク質の14%に当たる64種類のタンパク質分解酵素が見出され、リョクトウの生理活性効果にはペプチドが重要な役割を果たしているものと考えられた。 近年では機能性食材に対する社会的ニーズを背景に伝統的農産物の見直しなどが行われている。日本でのリョクトウの栽培は現在では長崎県対馬市を含む九州の一部地域にわずかに残る程度であるが、伝統植物資源の再評価の目的で対馬市在来種のリョクトウの炎症性メディエーター産生調節能を検証したところ、当該リョクトウは東アジア各地に由来するリョクトウと同等程度の免疫調節能を持つことが明らかになった。
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