【目的】ワルファリンは、心筋梗塞や脳塞栓症などの血栓塞栓症の治療および予防に用いられるが、効果には大きな個人差がある。個々に合わせた用量を調節する必要があるが、その原因の1つとして併用薬との相互作用が挙げられる。なかでも、一部のHMG-CoA還元酵素阻害薬は、ワルファリンの作用を増強することが知られているが、HMG-CoA還元酵素阻害薬は併用される頻度が高く、ときに死亡例が報告されている。シンバスタチンは主にCYP3A4により、またフルバスタチンおよびロスバスタチンは主にCYP2C9により代謝されることから、これらの薬剤がワルファリン代謝に影響していると考えられるが、阻害の強さや作用機序は不明である。そこで、申請者は、国内で承認されているHMG-CoA還元酵素阻害薬(アトルバスタチン、シンバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン)を用いて、ヒト肝ミクロゾーム(HLMs)のS-ワルファリン7-水酸化酵素活性に対する影響を検討した。さらに、HMG-CoA還元酵素阻害薬は生体内でacid体とlactone体の両構造をとることが知られており、HMG-CoA還元酵素阻害薬の阻害作用は未変化体だけでなく、その変換体についても解析する必要があると考えられ、ワルファリン代謝に対する各種HMG-CoA還元酵素阻害薬(acid体およびlactone体)の阻害作用とその機構を明らかにすることを目的とした。 【方法】HLMsおよび組換え酵素(CYP2C9.1、CYP2C9.3)を酵素源として、S-ワルファリン7-水酸化酵素活性に対する各HMG-CoA還元酵素阻害薬の生体内変換体の影響を検討した。 【結果および考察】フルバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチンでは、未変化体(IC^<50>値はそれぞれ0.585μM、31.2μM、41.8μM)の方が変換体(IC^<50>値はそれぞれ8.48μM、45.2μM、>100μM)よりもワルファリン代謝活性を強く阻害した。一方、アトルバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチンでは、未変化体は顕著な阻害作用を示さなかったが、変換体は阻害作用を示した(IC^<50>値はそれぞれ31.7μM、33.5μM、>100μM)。組換え酵素(CYP2C9.1、CYP2C9.3)を用いた解析でも、HLMsと概ね同様の阻害プロファイルを示した。以上の結果から、これらHMG-CoA還元酵素阻害薬の変換体は未変化体と同様、ワルファリン代謝を阻害することが明らかとなった。
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