日常臨床においてヘパリンは、血栓症の予防や治療に世界中で広く使用されている。一方で重篤な副作用として、ヘパリン性血小板減少症があり、死亡率は10~20%とされる。しかし、投与量はヘパリン投与前のAPTT値を基準とし、APTTを1.5~2倍延長する投与量がよいとされているが、適正量算出の数式やシミュレーション法は確立されていない。 そこで、まず過去のヘパリン使用患者のデータ解析により適正量算出の数式を導き出し(レトロスペクティブ解析)、その結果よりヘパリン投与前に適正用量を算出後、初回投与量とし臨床現場での応用を目指す(プロスペクティブ解析)ことを本研究の目的とした。 浜松医科大学医学部附属病院において、2014年4月1日~2015年3月31日の期間にヘパリンを投与された患者を、当院の臨床研究データベースシステム(D star D system)を用いて抽出し対象患者とした。影響因子として、体重及びAPTT値に着目して統計学的手法を用いてレトロスペクティブ解析を行った。 D star Dにより抽出した患者198名、APTT測定値は819ポイントであった。ヘパリン投与後のAPTT値が、投与前のAPTT基準値と比較して、①1.5倍未満群、②1.5~2倍群、③2.1倍以上群の3群に分類し、各群の体重あたりのヘパリン投与量について統計解析を行った。正規性並びに分散性を確認し、Kruskal Walis検定により3群間に有意差があることが示唆された。さらに、Mann-Whitney's U-testにより、投与量中央値は①2071U/kg/day、②248IU/kg/day、③283IU/kg/day、有意差についてはBonferroni補正を行い、各群間全てにおいて有意差が認められた。したがって、ヘパリン至適投与量として、ヘパリン投与前のAPTT値を基準とし、APTTを1.5~2倍延長するヘパリン投与量は、248IU/kg/dayが投与量として至適量であることが示唆された。本研究においてハイリスク薬であるヘパリンの投与において安全で有効な投与域に到達させるための適正量算出式が得られた。今後、この結果をもとにプロスペクティブに投与を行い、適正性を探索していく予定である。
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