研究実績の概要 |
本研究の位置づけと応募者のこれまでの研究成果を踏まえた着想に至った経緯 : 凝固波形の解析は2013年にAPTTの凝固反応過程で生じる凝固波形から血友病の疾患において異常な波形が生じることが発見されたことでAPTTによる血友病の診断及びその重症判定が可能であることが示唆されて近年、注目されている検査法である。この波形解析法は患者血漿中にCaを一定量添加することによって得られる凝固反応の開始から最終産物であるフィブリンが形成されるまでの過程で得られる光の透過性量が変化することを利用して経時的変化量を描出したのが血液凝固波形とされている。この吸光度波形をさらに一定時間当たりの2点間を一次微分することで凝固の速度(1st)を導き出すことができる。得られた1stの凝固波形をさらに二次微分することで凝固の加速度(2st)を導き出すことができる。これらの波形の中にAtypical peakで示すような停滞した特徴的な波形異常と2stの最大ピークから最小ピークまでの時間が正常と比較して延長している症例がAPTTの延長例に多く認められた点に着目し研究を開始した。 2015年度の研究で明らかにしたこと①、②と残された課題③ : ①APTT延長症例の中で異常な波形パターン例を集積して凝固波形の統計解析を行い数値定量化して特定の鑑別点を見つけることができないか検討する課題の研究成果では異常な波形パターンであるAtypical peakを示す割合はLA陽性例患者88例では94.5%、凝固因子欠乏症43例では29.1%の割合で認められ、その他の正常20例、血友病A, Bなどの疾患10例、抗凝固療法中の患者33例では認められなかった。 ②波形異常のパターンを集積して1の解析を利用して他の凝固異常症での検証と疾患ごとに識別が可能かどうか証する課題の研究成果では2stの加速開始点から最大ピークまでの時間と最大ピーク(B)から最小ピークまでの時間(C)をもとにした(B/C ratio)を検討した。正常群から算出したカットオフ値(>2.10)をもとにするとLA陽性例患者例では57.8%、凝固因子欠乏症例では27.8%の割合で陽性となり、その他の血友病A, Bなどの疾患例、抗凝固療法中の患者例では全て陰性であった。そこでAtypical peakとB/C ratioの2つを指標として検証したところ、LA陽性例患者群では感度88.0%と検査精度の高い結果が得られた。平成28年度は残された課題である③の波形異常出現のメカニズム解明のためLAの責任抗体であるリン脂質抗体を用いて異常凝固波形機序を解明し凝固異常症への診断の基盤研究を完成させる。
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