研究実績の概要 |
【目的】パーキンソン病(PD)の死因の第1位は肺炎であり, 嚥下障害は肺炎発症のリスク因子と考えられている. 嚥下障害はPD患者の半数以上にみられるが, 自覚症状に乏しく, むせのない誤嚥も多いことから, 精度の高い評価法によって早期に診断することが重要である. 本研究では, PD患者を対象に舌圧測定と嚥下造影(VF)検査の同時記録により嚥下機能を定量的に解析することを目的とした. 【対象と方法】対象はPD患者22名(男性12名, 女性10名, 69.6±7.3歳)とし, VF検査と同時に嚥下時舌圧を記録した. 舌圧は5箇所の感圧点を有する舌圧センサシート(SwallowScan, Nitta)を用いて測定した. 測定部位は口蓋前方(Ch1), 口蓋中央(Ch2), 口蓋後方(Ch3), 口蓋周縁(Ch4, Ch5)とし, 各Chの舌圧最大値(kPa), 舌圧持続時間(秒)を算出した. VF検査は, バリウム水溶液3ml, 5mlをそれぞれ命令嚥下で3回記録した. VF検査から口腔通過時間(OTT), 咽頭通過時間(PTT), 嚥下回数, 口腔/咽頭残留, 誤嚥を評価した. 【結果】舌圧持続時間はOTTとの間に有意な相関を認めたが, PTTとの間に関連はみられなかった. 口腔/咽頭残留および複数回の嚥下がみられる患者では, 口蓋正中部の舌圧最大値が低かった. VF検査で誤嚥を認めた患者群の最大舌圧値は, 誤嚥のなかった患者群と比較し全ての測定部位で低値であった. PD重症度(Hoehn-Yale)が高いほど舌圧最大値は低くなる傾向を示した. 【考察】嚥下時の舌口蓋接触時間は口腔期における舌の食塊操作と関連することが示唆された. 口蓋正中部の舌圧低下は, 舌の筋力低下による食塊の駆出力に起因し, 口腔残留や分割嚥下を生じると考えられた. 誤嚥を認める患者やPD重症度が高い患者では, 嚥下時舌圧が低下することから, 嚥下障害の早期診断に有用である.
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