研究実績の概要 |
下記の3つの課題についてそれぞれ研究を進めた。 課題(1) 仮説推論器の改良 一階述語論理上の最良仮説探索を整数線形計画問題に変換する過程で、最良の仮説に含まれる見込みが薄い要素仮説(リテラル)を近似探索し枝刈りする方法を検討した。機能的な言語表現に対応するリテラルの扱いで深刻な非効率を生じている問題に着目し、解決策を提案、実装した(山本他, 2016)。 課題(2) 談話解析モデルの構築と評価 談話解析のベースとなる文内述語項構造解析および事実性解析について、詳細な誤り分析をおこない、課題の抽出および改善手法の提案につなげた(松林他, 2015; 成田他, 2015)。また、意味解析・知識獲得のための意味表現学習について研究を進め、エンティティ間の関係を表す言語表現の分散表現をうまく学習することによって意味解析や関係抽出の精度が向上することを示した(Takase et al., 2015, 2016; Komatsu et al., 2015; Dumont et al., 2016; Shimaoka et al., 2016)。さらに、こうした知見を文章に対する質問応答タスクに適用し、談話の各断片から得られる情報のある種の接合を分散表現で扱える可能性があることがわかった(Kobayashi et al., 2016) 課題(3) 物理計算との融合と運転シーン理解への応用 運転シーン中のオブジェクトの検出については、近年急速に進歩してきた画像認識技術の今後の発展を前提とし、それ以外の技術に注力して研究を進めている。2015年度は、実際の運転シーンからオブジェクトの状態を人手で書き起こした論理式および物理シミュレーションのパラメタを入力として、仮説推論器と物理シミュレーションの相互作用によって次に起こるイベントを予測するシステムを試作した(Inoue et al., 2015)。
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今後の研究の推進方策 |
課題(1) 仮説推論器の改良 仮説推論器については、2015年度の成果によって最低限の要件を満たすシステムを開発することができたと考える。今後は、現在の仮説推論器を実際の談話解析に適用する試みを先行させ、その中でさらに重要な課題が見つかれば適宜対応するという方針で進める。 課題(2) 談話解析モデルの構築と評価 今年度進めた意味解析・知識獲得の研究をさらに発展させるとともに、知識の公理化、談話解析モデルの実装と評価に並行して取り組む。開発・評価には、同種の問題だけをコントロールして集めたWinograd Schema Challenge (WSC) (Levesque, AAAI2011; Rahman et al., EMNLP2012)やChoice of Plausible Alternatives (COPA) (Roemmele et al., AAAI2011 Spring Symposium)、Cloze Tests(Mostafazadeh et al. 2016)などのデータセットを利用する。まずは、共参照関係と談話関係の解析に必要な「行間」を人手で分析し、初期の実験を行うための基本的な意味/知識表現を設定し、それに基づいて既存の知識資源DBpedia、Freebase等、また知識獲得研究の成果物の公理化を試みる。 課題(3) 物理計算との融合と運転シーン理解への応用 実際のヒヤリハットの運転シーンを集めたデータセット(東京農工大ドラレコデータベース)を用いて今年度試作したシステムの大規模な評価実験を行い、今後の方針を具体化する。
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