研究課題
本研究では,健康な状態から介護・医療を受けるまでのケアを高齢者に提供する介護コンシェルジュエージェントを構築するために,(1)安心・安全ケア技術(事故予防と認知症発見技術),(2)健康改善ケア技術(生活行動改善と動機づけ技術),(3)快適介護ケア技術(好みの介護理解技術)を探究するとともに,(4)プライマリケア(総合性と受診のしやすさに基づく地域の保健医療福祉ケア)の観点から,在宅・介護施設・病院に受け入れられる介護コンシェルジュシステムの可能性と問題点を整理することを目指す.その目的達成に向けて平成28年度では,(1)に関しては認知症を含む生活不活発病とその異常検知技術を考案し,(2)に関しては高齢者を動機づけるための効果的な称賛方法を模索した.また,(3)に関しては好みの介護理解に向けて,個人の主観に寄り添う技術を進め,(4)に関してはプライマリケアに向けた臨床研究遂行に関するプロトコールの検討を行った.また,AAAI 2017 Spring Symposiumにて“Wellbeing AI: From Machine Learning to Subjectivity Oriented Computing”というシンポジウム,IEEE World Congress on Computational Intelligence 2016にて“New Directions in Evolutionary Machine Learning”というスペシャルセッションを組み,本研究の成果を発表するとともに,人工知能学会学会誌の2016年5月号にて「超高齢社会とAI」,2017年1月号にて「Well-being Computing」という特集を企画して,解説記事と特集巻頭言を執筆し,本研究の成果を社会に向けて発信した.さらに,本研究での成果の一部を新たに特許として申請した.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,エージェントに組み込むコンシェルジュサービスのケア基盤技術として,(1)安心・安全ケア技術,(2)健康改善ケア技術,(3)快適介護ケア技術を探究するとともに,(4)それらの技術が在宅・介護施設・病院に受け入れられる上での問題を解決する.その目的達成に向けて平成28年度では,(1)安心・安全ケアとして,高齢者の事故予防と認知症発見に焦点をあて,認知症を含む生活不活発病とそこから発生する異常検知に取り組んだ.具体的には,屋内における高齢者の異常状態の検知アルゴリズムを考案するとともに,日常生活の長期的観察に基づく生活不活発病の早期予報のためのセンサネットワークを構築し,介護老人保健施設「ゆい」および学生寮にて評価した.次に,(2)健康改善ケアとして,高齢者が健康のために何かをしようとする動機づけに焦点をあて,高齢者に効果的な称賛方法を模索した.具体的には,運転シミュレータ実験ではあるものの,事前より事後の称賛フィードバックが高齢者の行動変容を促す効果があること,自分の行動による達成感が若者以上に高まることを明らかにした.また,(3)快適介護ケアとして,好みの介護理解に焦点をあて,個人の主観に寄り添う技術を進めた.具体的には,視聴触味覚を対象に実施してきた好みの個人差に関する研究を,高齢者に応用するべく検討を行った.最後に,(4)プライマリケアとして,高齢者の転倒リスクの予測に焦点をあて,有用な生理学的指標および運動機能指標を抽出するために,臨床研究遂行に向けたプロトコールの素案作成を始めるとともに,適切な高齢者施設を選定するために,複数の介護老人保健施設および介護付老人ホームの現地調査を継続した.
今後の研究としては,申請書に記載された計画を進めることを基本とする.具体的には,エージェントに組み込むコンシェルジュサービスのケア基盤技術としての(1)安心・安全ケア技術,(2)健康改善ケア技術,(3)快適介護ケア技術に関する研究と,(4)提案技術が在宅・介護施設・病院に受け入れられる上での問題を解決する研究を次のように推進する.まず,(1)に関しては今後も24時間常時見守りシステムの開発と改良に取り組み,そのシステム上での異常検知および長期的観察に基づく生活不活発病(認知症を含む)の早期予報技術を探求すると同時に,老健を含む実際の介護施設において実証実験を行う.また,クラウドを利用した老人介護施設向け知識共有システムを構築し,社会全体に還元する.次に,(2)に関しては,高齢者の行動変容を引き起こす情報提示に向けて,高齢者の現状の可視化方法を探求するとともに,何を基準として差異を示すことが称賛提示につながるのか,また,どのようなインタフェースが称賛として伝わりやすいかを被験者実験により明らかにする.そして,(3)に関しては高齢者の好みに寄り添う技術開発を継続し,様々な素材を対象とした印象評価実験を加速する.さらに,(4)に関しては臨床研究実施計画書と倫理委員会への申請資料を作成し,申請する.また,倫理委員会の承認が得られれば,同意を得られた高齢者から速やかに手順を踏んだ臨床研究を開始する.最後に,昨年に引き続き,国際会議や国内学会でシンポジウムを企画し,本研究の成果を社会に向けて発信する.
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 10件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 産業財産権 (2件) 学会・シンポジウム開催 (2件)
人工知能学会誌
巻: 32(1) ページ: 81-86
巻: 32(1) ページ: 79-80
巻: 32(1) ページ: 111-116
AI magazine
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システム/制御/情報
巻: 60(7) ページ: 278-283
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巻: 31(3) ページ: 324-325
日本病院総合診療医学会雑誌
巻: 10(2) ページ: 104-106