研究課題
本研究では,健康な状態から介護・医療を受けるまでのケアを高齢者に提供する介護コンシェルジュエージェントを構築するために,(1)安心・安全ケア技術(事故予防と認知症発見技術),(2)健康改善ケア技術(生活行動改善と動機づけ技術),(3)快適介護ケア技術(好みの介護理解技術)を探究するとともに,(4)プライマリケア(総合性と受診のしやすさに基づく地域の保健医療福祉ケア)の観点から,在宅・介護施設・病院に受け入れられる介護コンシェルジュシステムの可能性と問題点を整理することを目指す.その目的達成に向けて平成29年度では,(1)に関しては開発した見守りロボットを介護施設に導入し,高齢者の日常生活行動から健康状態や転倒などの異常検出技術の実証実験を行った.また,(2)に関しては高齢者の健康に対する動機づけに向けて,高齢者の生活情報の時系列表示の効果を分析し,(3)に関しては好みの介護理解に基づく高齢者支援に向けて,高齢者の好む質感の物(スマホケース)の作成に取り組んだ.最後に,(4)に関してはプライマリケアに向けた臨床研究遂行に基づく倫理委員会用の書類を作成し,事前チェックを受けた.学会活動としては,AAAI 2018 Spring Symposiumにて“Beyond Machine Intelligence: Understanding Cognitive Bias and Humanity for Well-being AI”というシンポジウム,2017年度人工知能学会全国大会にて“Well-being Computing”というオーガナイズセッションを組み,招待講演をするとともに,本研究の成果を発表した.さらに,計測自動制御学会,システム・情報部門学術講演会2017では優秀論文賞を受賞しただけでなく,本研究での成果の一部を新たに特許として申請した.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,昨年度に続き,エージェントに組み込むコンシェルジュサービスのケア基盤技術として,(1)安心・安全ケア技術,(2)健康改善ケア技術,(3)快適介護ケア技術を進展させるとともに,(4)それらの技術が在宅・介護施設・病院に受け入れられるための障害を解決することに着手した.特に,平成29年度では,(1)安心・安全ケアとして,高齢者の事故予防と認知症発見に向けて,認知症を含む生活不活発病などから発生する異常検知を向上させた.具体的には,開発した見守りロボットを用いて,介護施設における高齢者の身体的・認知的変化を短期および長期にモニタすることで,高齢者の日常生活行動(Activities of Daily Living: ADL)を推定し,健康状態や転倒などの異常検出の技術を評価した.次に,(2)健康改善ケアとして,高齢者の健康に対する動機づけに向けて,ウェアラブル機器を使った高齢者の生活情報をモニタリングし,計測結果の一般的な時系列表示によって,自己行動の把握,問題点の察知,行動変容への気持ちの変化が生ずるかを分析した.その結果,本人の自主的な活動計画立案が健康生活のベースとなっていることが明らかになった.また,(3)快適介護ケアとして,好みの介護理解に基づく高齢者支援の実現に向けて,高齢者の好む質感の物を作成した.具体的には,3Dプリンターを用いて高齢者の好む質感を反映したスマホケースを試作し,実証実験をしたところ,若年者が「ざらざら」と感じるものを高齢者は「さらさら」と感じるように,表面の粗さを若年者よりも滑らかに感じることが明らかになった.最後に,(4)最終年度の総合実験に向けて,実施施設の選定や評価者,データ管理者などの取り決め,個人情報管理について明確にし,聖マリアンナ医科大学倫理委員会への提出書類の事前チェックを受けた.以上より,計画通り着実に進んでいる.
今後の研究としては,申請書に記載された計画を進めることを基本とする.具体的には,エージェントに組み込むコンシェルジュサービスのケア基盤技術としての(1)安心・安全ケア技術,(2)健康改善ケア技術,(3)快適介護ケア技術の3つケア基盤技術を統合した介護コンシェルジュエージェントに実装し,現場(介護施設)で実証実験するとともに,総合評価を行う.このとき,構築したエージェントが現場で受け入れ安くするための工夫も検討する.特に,(1)に関しては,高齢者の身体的機能である日常生活行動(ADL)の推定技術と,心拍・体動データから睡眠段階推定技術を組み合わせた高齢者の生活活動モニタリングエージェントを構築する.さらに,ADLを自立度に応じて指標化し,その長期的な変化を観察することによって,認知症を含む生活不活発病の早期検出のための可能性を検討する.次に,(2)に関しては,高齢者のADLの現状や継時的変化の見える化を工夫し,ADLを維持させるための動機付けの機能を実装後,ADLの低下に対するレジリエンス(リスクに対してしなやかで強い回復力)を獲得するエージェントを目指す.そして,(3)に関しては,高齢者が手触り(触覚)として好まれると思われるのもの(布団やまくらなど)が,睡眠などによい影響が出るかを検討する.さらに,(4)に関しては臨床研究実施計画書と倫理委員会への提出資料を申請するとともに,上記の実証評価を通して,介護コンシェルジュサービスシステムにおいて必要な構成要素を明らかにする.最後に,昨年に引き続き,AAAI,GECCOなどの国際会議,日本病院総合診療医学会学術総会,人工知能学会などの国内研究会で発表し,本研究の成果を社会に向けて発信する.
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 12件) 産業財産権 (5件) (うち外国 2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
SICE Journal of Control, Measurement, and System Integration (JCMSI)
巻: Vol. 11, No. 3 ページ: 239-248
https://doi.org/10.9746/jcmsi.11.239
日本病院総合診療医学会雑誌
巻: Vol. 14, No. 2 ページ: 166-172
AI magazine
巻: Vol. 38, No. 4 ページ: pp. 99-106
10.1609/aimag.v38i3.2754
Journal of Advanced Computational Intelligence and Intelligent Informatics (JACIII)
巻: Vol. 21, No. 5 ページ: pp. 885-894
10.20965/jaciii.2017.p0885
巻: Vol. 21, No. 5 ページ: pp. 895-906
10.20965/jaciii.2017.p0895
聖マリアンナ医科大学雑誌
巻: Vol. 45, No. 2 ページ: pp. 105-111
Journal of Hospital General Medicine
巻: Vol. 13, No. 1 ページ: pp. 24-27
巻: Vol. 13, No. 1 ページ: pp. 8-13
診断と治療
巻: Vol. 105, No. 6 ページ: pp. 737-743
Journal of General and Family Medicine
巻: Vol. 18, No. 3 ページ: pp.146-147