研究課題/領域番号 |
15H01730
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小泉 博 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50303516)
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研究分担者 |
近藤 美由紀 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 研究員 (30467211)
藤嶽 暢英 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50243332)
吉竹 晋平 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 助手 (50643649)
川東 正幸 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (60297794)
飯村 康夫 滋賀県立大学, 環境科学部, 助教 (80599093)
加藤 拓 東京農業大学, 応用生物科学部, 准教授 (90571828)
友常 満利 神戸大学, 農学研究科, 特命助教 (90765124)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオチャー / 生態系生産 / 純一次生産 / 有機物分解 / 森林生態系 / 地球温暖化 |
研究実績の概要 |
バイオチャーに対する森林生態系の応答解析においては、新たなバイオチャー散布実験を行った。その結果、土壌呼吸速度とリターフォール量はバイオチャー散布区で大きい値を示した。これは、バイオチャー散布による微生物量の増加と、葉や花の生産量の増加に起因すると考えられる。一方、樹木成長量はバイオチャー散布による影響は見られなかった。これらの結果はバイオチャー散布が生態系純生産量だけでなく、樹木による純一次生産量の分配率にも大きな影響を与えることを示唆している。 バイオチャーの特性と動態解明においては、散布直前および散布後約3カ月毎にサンプルを採取し、バイオチャー層、有機物層、鉱質土層の理化学性を測定した。その結果、バイオチャー散布区では、有機物層における全窒素濃度が対照区よりも低くなった。一方、散布したバイオチャー中の全窒素濃度は時間とともに増加した。同様に、硝酸態およびアンモニア態窒素も散布区の土壌では低下し、バイオチャー自体のこれらの濃度は増加した。これらの結果、溶存態窒素をバイオチャーが吸着することによりそれらの下方への浸透が妨げられ、より下層の土壌では窒素濃度が低下することが示された。 バイオチャーの作出と散布技術の開発においては、バイオチャーとしてススキ炭化物を用いた散布実験を試みた。168日間の乾土1kgあたりのCO2放出積算量はコントロール区で1.6 gC kg-1、バイオチャー区で2.0 gC kg-1であり、バイオチャー区で0.4 gC kg-1高い値を示した。ただし、全C量あたりに放出されたCO2-C量で評価するとコントロール区で1.0%、バイオチャー区で1.4%であり両区間の差はほとんどなかった。これらの結果は、バイオチャーの質によって炭素の隔離効果が異なることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、専門測定機器の不具合により安定同位体を用いたCO2の発生源の特定が遅れていたが、本年度はおおむね当初の計画通りに研究を遂行している。
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今後の研究の推進方策 |
バイオチャーに対する森林生態系の応答解析においては、野外操作実験区で土壌微生物の量や組成、有機物分解呼吸量の変化、植物のリター量や細根生産量、植物成長量の変化の計測を継続する。また、新たに散布方法を変えた操作実験区を設け、特に土壌圏での層構造を考慮に入れた有機物分解に焦点をあてて分析を行う。上記の結果からNEPを推定し、バイオチャー散布による森林生態系の炭素固定能に与える影響の解明を試みる。さらに、植物をポットに栽培した単純な系に、バイオチャーを散布した人工気象室での栽培実験を継続する。定期的に植物の成長量、光合成速度、土壌微生物の分解呼吸量の変化を明らかにし、これまでの各測定結果と統合し、稚樹のNEP評価を行う。 バイオチャーの特性と動態解明においては、バイオチャーの原材料や散布方法を変えた人工作出土壌を室内培養し、それぞれの土壌について土壌の層構造を考慮に入れた分解特性を明らかにする。また、得られた安定同位体比や年代測定データの結果と統合することで、野外・室内実験土壌の有機物特性の解明を試み、バイオチャーの炭素固定能をはじめとする各種機能性に対する科学的根拠を立脚する。さらに、森林に散布したバイオチャーを土壌とともに定期的に採集し、養分分配の経時的なバイオチャーの分散・移動にともなう養分の移動と林地微地形との関係を検討する。 バイオチャーの作出と散布技術の開発においては、地下部からの炭素損失量が最少となるように、複数の散布方法を再検証し、バイオチャー作出技術の検討とともに森林への散布手法の最適化を行う。また、培養土壌から有機物を抽出し、腐植としての人工作出バイオチャーの同一性と相違性の検討を行う。これらの結果を統合し低炭素社会に向けたシナリオ作りを目指す。
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