研究課題/領域番号 |
15H01731
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
東 久美子 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (80202620)
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研究分担者 |
櫻井 俊光 国立極地研究所, 研究教育系, 特任研究員 (00581810)
本山 秀明 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (20210099)
平林 幹啓 国立極地研究所, 研究教育系, 特任助手 (20399356)
永塚 尚子 国立極地研究所, 研究教育系, 研究員 (30733208)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 南極氷床コア / ダスト / マルチパラメータ / 氷期・間氷期 / 気候・環境変動 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、国立極地研究所で開発中のアイスコア連続自動融解分析装置(CFA)を用いて南極ドームふじ氷床コアの完新世のサンプルを分析するために分析条件の最適化を行った。具体的には、ダストに含まれる成分であるNa、Ca、K、Mg、Al、Feの濃度を測定するため、ICP質量分析計のチューニングを工夫するとともに、CFAシステムを構成する部品からのコンタミネーションを抑える工夫をすることで、これらの元素が極微量しか含まれない、完新世のサンプルの高精度分析を可能にした。また、微細なダストの個数と粒径分布を高精度で測定するため、既存のレーザー遮蔽式ダスト分析計の分析プログラムを開発した。 これと並行し、ドームふじ氷床コアのサンプル分析計画を立案し、ドームふじ氷床コア研究の実施母体であるドームふじアイスコアコンソーシアム(ICC)にサンプル分析計画を提出し、ICCからサンプルを使用するための承認を得た。承認が得られた後、低温内で完新世のサンプルをCFA用に切断、整形し、整形したサンプルを用いてCFAによる酸素同位体比分析と、ダストの個数及び粒径分布の分析、さらにNa、Ca、K、Mg、Al、Fe濃度の計測を開始した。 一方、氷床コア中に含まれる微量かつ微小なダストを光学顕微鏡で観察するため、高精度の光学顕微鏡を選定し、導入した。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行うため、融解又は昇華させたアイスコアサンプルに含まれるダストをフィルター上に収集し、コンタミネーションなしで化学成分を定性分析するための分析方法の開発を開始した。さらに、クライオステージを用いて氷床コアを融解せずに分析するための分析法の開発を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
南極ドームふじ氷床コアの完新世のサンプルに含まれる固体微粒子やNa、Ca、K、Mg、Al、Feの濃度は極微量である。そのため、ICP質量分析計のチューニングの最適化と、流路からのコンタミネーションを最小限に抑えることが必要であった。平成27年度は極微量濃度の測定を行うためにCFAを最適化する過程で、当初の予想に反してCFAの分析データに異常ピークが見られた。実験の結果、この異常ピークは、CFAを構成する様々な部品に混入するコンタミネーションが原因であることが判明し、分析精度の再評価を行うことが必要になった。詳細なテスト実験を繰り返した結果、コンタミネーションの原因となる部品を特定することができ、コンタミネーションを除去することに成功した。また、CFAの部品や運用方法を改良することで、完新世のサンプルの分析に十分な分析精度を有することが明らかになった。これにより、完新世サンプルのCFA分析を順調に実施することができた。 一方、ダストの個数と粒径分布の計測方法には従来様々な問題があったが、世界的にも問題の原因が十分に認識されておらず、解決策が講じられてこなかった。そのため、精度の低い測定や測定結果の誤った解釈により、誤った結論を論じた論文が多数見られる。本研究では、ダスト分析法についても様々なテストを行うことで分析法の問題点を見出すことができ、さらに、分析法の改良を行うことができた。 完新世サンプルの分析開始までに当初の計画よりも時間がかかったが、現在は、問題が解決し、研究がおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は完新世のサンプルを分析するためにCFAを最適化したが、今後分析を予定している退氷期や最終氷期のサンプルにおいては、これらの成分の濃度が完新世に比べて数倍~数十倍である。そのため、CFAを高濃度のサンプル分析用に最適化する必要がある。遮蔽式ダスト分析計は、固体微粒子の濃度が一定量を超えると分析視野の中で粒子が重なってしまうために、測定精度が低下する懸念があり、超純水による希釈を行う必要が生じる可能性が高い。詳細なテストを実施し、異なる時代のサンプルに対して最適な希釈倍率を検討するとともに、CFA装置に自動希釈装置を加える工夫を行う。 本研究課題の中には、氷床コア中の気体分析の実施は含まれていない。しかし、国立極地研究所では、別の研究課題でCFAを用いたメタンガスの分析法を開発しており、南極ドームふじ氷床コアのメタンガスの分析を開始した。メタンガスは過去の環境変動の指標として重要であるだけでなく、高精度年代決定にも貢献するので、今後は、メタンガスの研究とも連携して研究を進める。 今後は、CFA分析に加えて、光学顕微鏡観察とSEM観察を実施する。ドームふじ氷床コアに含まれる固体微粒子は微細であり、光学顕微鏡や電子顕微鏡による観察には困難が予想されるため、電子顕微鏡観察の実績を有するデンマーク工科大学やアルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所との共同研究を進める。
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