研究課題
海洋研究開発機構海洋地球研究船「みらい」による2017年9月の海洋観測航海(MR17-05C航海)に乗船し、前年9月に北極海太平洋側2か所(米国アラスカ州バロー北方沖およびチュクチ海ハンナ海底谷北部)に投入した海底固定型時系列セジメントトラップ係留系の回収と設置を行った。前年に投入した係留系が無事回収されたことで、本課題で得られた水温・塩分データや沈降粒子試料の蓄積が2015年9月から約2年分に増え、海洋表層~亜表層の物理環境と、低次生物活動の動態やセジメントトラップで捕集される粒子量変動との関係が少しずつ分かってきた。バロー北方沖においてセジメントトラップで捕集された陸棚海底由来の再懸濁物を主体とする粒子量の時系列変動は、2015年は10月に、2016年は12月に極大を示した。捕集粒子量が極大となった月の違いは、チュクチ海の陸棚下層をカナダ海盆に向かって流れ出たベーリング陸棚起源水が係留系地点深度100m前後の亜表層に検出された時期の違いとほぼ対応していた。生物活動が活発になる6月から8月の期間を見ると、2016年は海氷が陸棚縁辺に沿ってバンド上に残り続けた。結氷水温に近い冷水塊が亜表層に分布し、亜表層のクロロフィル濃度も低かった。2017年の夏は、海氷は前年のようなバンドを形成せずに海盆側へ後退し、ベーリング海起源水やアラスカ沿岸水が係留系地点で確認された。植物プランクトン色素濃度も前年より高めとなった。バロー沖で形成される海洋渦によるカナダ海盆西方に向けた粒子輸送の寄与について、数値モデル実験を開始した。またチュクチ海北部陸棚縁辺からチュクチ深海平原にかけての北太平洋起源水の輸送について、数値モデルによる実験結果を中心に考察した論文を国際誌Deep-Sea Research Iから出版した(Watanabe et al. 2017)。
2: おおむね順調に進展している
計画していた係留系2系の回収と再設置は計画通り実施され、また本研究に必要なデータおよび沈降粒子試料を、一部センサーを除き2016年9月中旬から2017年7月まで連続して得ることができた。数値モデル実験に関する進捗も大きな問題は発生していない。
2018年度は本課題最終年のため、現場観測は2017年度に北極海に設置した係留系の回収を行い、本課題による係留系の再設置は実施しない。これまでに得られた係留センサーデータから得られる海洋物理の実測値および沈降粒子試料の分析結果と数値モデル実験の結果から、海洋表層循環場が陸棚から海盆への物質輸送に及ぼす影響について、特に以前示唆された海洋渦による物質輸送の寄与についても考察し、本課題の実施を通して得られた知見をまとめる。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 12件、 招待講演 1件)
Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers
巻: 128 ページ: 115~130
10.1016/j.dsr.2017.08.009