研究課題/領域番号 |
15H01737
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
安井 明 東北大学, 加齢医学研究所, 加齢研フェロー (60191110)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クロマチンリモデリング / DNA修復 / 二重鎖切断 / シスプラチン / BAF複合体 / 発癌 / 癌治療 / ARID1A |
研究実績の概要 |
ATP依存的なクロマチンリモデリングはヌクレオゾームリモデリング (NR) とも言われ、転写制御を行なうが、4つのファミリーがある。その一つのSWI/SNFファミリーに属するBAF複合体は13以上の因子から成り立っていて、その中にはATPaseであるBRM或BRG1があり、ターゲット配列を見つけると考えられているARID1AとARID1Bなどがある。我々は転写制御を目的としたBAF複合体のCRの機能がDNA修復にも関わり、関与する因子を同定し、二重鎖切断のNHEJや紫外線損傷のNERなどの修復での修復蛋白の集積に必要であり、とりわけシスプラチンに対する抵抗性に重要である事を発見した。最近の癌細胞の全ゲノム配列決定により、BAF因子は全ての癌のおよそ20%で変異が見つかり、同時に我々は肺癌細胞の70%でどれかの因子の発現が極端に減少している事を見つけた。これらの結果を踏まえて今年度は 1)ARID1AとARID1Bを中心とするDNA損傷応答の分子機構の解明 2) 癌細胞でのBAF複合体因子の変異と癌化との関係 3) BAF複合体因子の変異と細胞の感受性との関係 の三つの重要な研究を進めた。1)に関しては250kDaのARID1A因子を昆虫細胞で発現させ精製する事に成功した。この蛋白を用いてin vitroでヒト細胞抽出液を作用させ相互作用蛋白を同定した。その中にNHEJに必要なKU蛋白があり、実際、ARID1Aはその中央のARIDドメインでKU蛋白と結合する事が分った。2)についてはゲノム背景の同じ細胞を用いてARID1AあるいはARID1B遺伝子の欠損が及ぼす変異への影響を調べつつある。3)については、BAF複合体因子の欠損とp53のstatus の細胞感受性との関係を調べつつある。これらを元にDNA修復とヌクレオゾームリモデリングの細胞癌化と癌治療の関係を解明しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ATP依存的なヌクレオゾームリモデリング (NR) は巨大なタンパク質複合体を扱う必要があり、BAF複合体のDNA損傷応答の分子機構に関してはこれまで殆ど進展が見られなかったが、今年度の研究でその一般的な問題を解決するプロテオミクスの技術を確立した。NRの変異や発現異常が細胞の感受性や他の遺伝子変異におよぼす影響についてはこれまで全く報告が無かったが、それを遺伝的バックグラウンドの同じ条件で解析することにして、その順部が整った。全体の研究計画の中でこれらの技術的進展は大変重要な進展と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1) DNA損傷に伴うARID1AとARID1Bの結合蛋白の同定とその結果を踏まえた細胞での解析からBAF複合体がDNA損傷に応答してDNA修復に貢献する分子機構を明らかにする。 2) ARID1AとARID1Bの欠損がもたらす細胞感受性を解析し、癌治療への応用技術を開発する。 3) ARID1AとARID1Bの欠損細胞をCRISPR/Cas9の系で作製し、突然変異への影響を調べ、BAF欠損細胞の高頻度発癌の機構を解析する。 4) NRの老化に伴う変化がもたらす細胞老化への影響を調べる。
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