研究課題
ヒト型多能性幹細胞モデルであるマウスEpiSC細胞株を均質な状態で効率良く樹立する培養技術に成功し、GFP標識メチル化結合蛋白質(MBD-GFP)とmCherry 標識ヘテロクロマチン蛋白質(HP1b-mCherry)のコンストラクトを導入したグローバルなエピジェネティック状態(DNAメチル化、ヒストンH3K9メチル化修飾)を可視化するEpiSC細胞(プライム型多能性幹細胞)を樹立した。ヒストン修飾部位特異的抗体を組み合わせた免疫染色法による化学物質の特異性を検出する系も開発している。さらに、低メチル化アリル検出とウルトラディープ解析の組み合わせによるヘテロな細胞集団で特定の遺伝子を発現する細胞の検出法を確立し、細胞集団のごく一部であっても、DNAメチル化状態の変化する遺伝子の同定が可能となった。従来のバイサルファイト法を改良した手法で1細胞メチル化解析を行なう実験系を確立した。他の環境要因との比較研究では、セシウム137の低線量被ばく条件下によって、DNAの二本鎖切断のマーカー分子であるγ-H2AXが増加し、それと同時に転写変動が確認され、抗ヒストンH4K3トリメチル化抗体を用いたChIP-seq法で多数の発現変動を反映するゲノム修飾箇所が観察された。予防策研究では、QSARに基く分子記述子と幹細胞の遺伝子ネットワークにおいて、それぞれをSVM機械学習による毒性予測を行った結果、予測率に大きな差が生じることが検証された。
2: おおむね順調に進展している
分担研究者の協力により、化学物質及び環境因子のスクリーニングのための細胞アッセイが確立できつつある。また、平成28年度に実施予定のスクリーニングのため、平成27年度内に、本研究課題全体で実施する化学物質100種及び放射線核種を既存の健康影響及び生態影響から情報科学の手法を活用して選定し、既存の毒性作用機構でグループごとに選別する予定であった。化学物質100種の選定にどのような基準で、選定をするのが最良なのかを各種のデータベースを活用して、選定作業をおこなっている。しかし、エピジェネティックな放射線影響をinvitroで評価するアッセイに最適な細胞が十分には存在しないため、今回新たに、iPS細胞から網膜神経節細胞の分化アッセイ方法の確立に着手している。
サブ課題1「メカニズムベースの細胞アッセイ法の開発」においては、早期に化学物質100種の選定を行い、マウスMBD-GFP-HP1b-mCherry細胞及びヒト神経幹細胞を用いてエピジェネティック活性を測定する。可能な限りスクリーニングを実施する化学物質数を増やして実施する。陽性となったエピジェネティック物質に関して、分化時間軸及び量反応関係によるエピジェネティック制御の変動と影響の関係性を明らかにする。化学物質が複数のエピゲノム修飾に対して与える影響を可視化する細胞の改良を進める。サブ課題2「エピミュータジェンの環境リスクへの予防策の開発」では、化学物質と他の環境要因によるエピジェネティック変動の特徴を解析し、予防対策となる早期影響マーカーの開発に結び付けるため、iPS細胞由来網膜神経節細胞の分化アッセイ法を用いて放射線セシウム、UV及びLEDの影響を調べる。陽性対照物質を用いてメチル化、アセチル化及びDNA損傷の3指標の相互関係を確率的統計及び機械学習などの手法により解析を進める。陽性対照物質を用いてメチル化、アセチル化及びDNA損傷の3指標の相互関係をバイオインフォマティクスの解析により検討する。また、ベイジアンネットワークの改良や機械学習による判別解析を検討する。さらに、低メチル化アリル検出とウルトラディープ解析の組み合わせによるヘテロな細胞集団で特定の遺伝子を発現する細胞の検出法を用いて、発生の初期と後期または多能性幹細胞の分化前後におけるDNAメチル化状態の変化を高感度に検出し、バイオインフォマティクスの解析により影響の予測を行う。各種の新規な手法をまとめ、エピジェネティックなイベントと後に顕在化する毒性影響との関係を明確に予測できる手法を検討する。
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