研究課題
本研究課題では、「エピミュータジェン」の存在を把握するために、エピジェネティック制御機構のうち、DNA(CpG)メチル化及びヒストン修飾変動を指標とする検出法の開発を進めている。既存の遺伝毒性物質や非遺伝毒性物質、化学物質以外の環境要因とエピゲノム毒性物質の影響比較と予測を行うために、被試験化学物質の選定作業を進めた。マウスES細胞の神経分化の過程に農薬及び環境有害物質を曝露し、多様なヒストン修飾酵素の組み合わせ変動を指標に、エピゲノム毒性物質の検出に関する研究を進めた。化学物質が複数のエピゲノム修飾に対して影響を与えることが考えられるため、DNAメチル化およびヒストンメチル化修飾の変動を異なる蛍光レポーターで可視化する細胞を作製し、影響の違いを把握できる複合評価システムを構築した。ヒト細胞における「エピミュータジェン」の影響を確認するための実験系として、ヒトiPS細胞を網膜神経節細胞に分化するプロトコールを確立し、ここに紫外線、LED、低線量放射線などの刺激を与えた。特に注目されたのは、低線量放射線照射において網羅的遺伝子発現解析を行うことで、高感度の遺伝子発現変動検出が可能であると確認できたことである。これらのシステムを用いて、早期影響マーカーの検出に関する研究を進めた。1細胞における高効率メチル化解析の手法の開発を進め、リファレンスとなるヒト及びマウスのDNAメチロームデータの収集を行った。また、ベイジアンネットワークの改良や機械学習による判別解析を検討した。初期胚における低メチル化アリル状態の検出方法を確立し、胚盤胞後期からの器官形成期に再メチル化によるDNAメチル化パターンの再構築が少数の細胞で始まることを明らかにした。以上の研究成果は、初期胚におけるDNAメチル化およびヒストンメチル化修飾の変動や低メチル化アリルをもつ細胞種の検出により、環境要因の影響を検出できる可能性がある事を示した。
2: おおむね順調に進展している
メカニズムベースの細胞アッセイ法の開発においては、遺伝毒性物質、非遺伝毒性物質、化学物質以外の環境要因とエピゲノム毒性物質の影響比較と予測を行うために、既存の健康影響及び生態影響を示す化学物質からの選定作業を進めた。マウスES細胞の神経分化の過程に農薬及び環境有害物質を曝露し、多様なヒストン修飾酵素の組み合わせ変動を指標に、分化時間軸及び量反応関係によるエピジェネティック制御の変動と影響の関係性の解明に関して研究を進めた。化学物質が複数のエピゲノム修飾に対して影響を与えることが考えられるため、DNAメチル化およびヒストンメチル化修飾の変動を異なる蛍光レポーターで可視化する細胞を作製し、影響の違いを把握できる複合評価システムを構築した。エピミュータジェンの環境リスクへの予防策の開発では、化学物質、放射線、発光ダイオード及び紫外線による網膜神経節細胞への影響を調べる方法を確立し、その方法を用いて早期影響マーカーの検出を行った。1細胞における高効率メチル化解析の手法開発では、これまでに解析対象外となっていたCpGサイトを増加させることに成功し、リファレンスとなるヒト及びマウスのDNAメチロームデータの収集を行った。また、ベイジアンネットワークの改良や機械学習による判別解析を検討した。初期胚における多能性には、低メチル化アリル状態が必要条件であるという「低メチル化アリルの概念」を応用して、ハプロ不全優性遺伝病の原因遺伝子であるFBN1について、ブタ初期胚でのDNAメチル化解析を行った。その結果、胚盤胞初期までにすべてのアリルが脱メチル化により多能性細胞が増加し、胚盤胞後期からの器官形成期に再メチル化によるDNAメチル化パターンの再構築が少数の細胞で始まることを明らかにした。これらの結果は、初期胚における低メチル化アリルをもつ細胞種の検出により、環境要因の影響を検出できる可能性がある事を示した。
メカニズムベースの細胞アッセイ法の開発においては、引き続き、エピジェネティック陽性物質及び放射線に関する毒性影響を解析し、時間軸、濃度軸、量反応関係によるエピジェネティック制御の変動と影響の顕関係性を解析する。グローバルなメチル化変動において化学物質特異的位置があるかどうかを検証し、ヒストン修飾変動との関係性を検討する。そのための戦略として、ヒストン修飾特異的抗体を用いた免疫沈降シーケンシング(ChIP-seq)を行い、ヒストン修飾酵素を介した環境刺激による遺伝子発現応答調節システムを推測する。サイレンシング操作等によりこの仮説を実証していく。化学物質が複数のエピゲノム修飾に対して与える影響を検出するために、修飾ごとに異なる蛍光色素で可視化する細胞を作製し、瞬時に影響の違いが把握できる複合評価システムを構築する。このシステムを用いて、遺伝毒性物質、非遺伝毒性物質、化学物質以外の環境要因とエピゲノム毒性物質の影響比較と予測を行うために、化学物質100種程度について、量反応解析のためのアッセイを実施する。エピミュータジェンの環境リスクへの予防策の開発では、陽性対照物質を用いてメチル化、アセチル化及びDNA損傷の3指標の相互関係をバイオインフォマティクスの解析により検討する。ベイジアンネットワークの計算力向上のための改良を実施し、毒性情報に関するデータを収集し、既存遺伝毒性と非遺伝毒性の毒性との違いを解析する。また、ベイジアンネットワークで得られたネットワーク構造や確率値を用いた判別解析を検討し、初期のイベントと顕在化する毒性影響との関係を明確に予測できる手法を検討する。さらに、低メチル化アリル検出とウルトラディープ解析の組み合わせによるヘテロな細胞集団で特定の遺伝子を発現する細胞の検出法を用いて、発生の初期と後期におけるDNAメチル化状態の変化を高感度に検出する方法の高度化を行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 4件、 招待講演 6件)
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