研究課題/領域番号 |
15H01749
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
福田 秀子 (曽根秀子) 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 室長 (60280715)
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研究分担者 |
桂 真理 東京大学, アイソトープ総合センター, 特任助教 (30436571)
中尾 洋一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60282696)
阿部 訓也 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, チームリーダー (40240915)
大鐘 潤 明治大学, 農学部, 専任准教授 (50313078)
藤渕 航 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (60273512)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 化学物質管理 / エピジェネティクス / 影響評価 / 予防対策 / in vitro / 幹細胞 / 生殖発生毒性 / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、「エピミュータジェン」の存在を把握するために、エピジェネティック制御機構のうち、DNA(CpG)メチル化及びヒストンの化学修飾変動を指標とする検出法の開発を進めている。DNAのメチル化CpG結合ドメインタンパク質 (MBD) に蛍光レポータータンパク質GFP を結合させたMBD-GFPを導入したマウスES細胞(mES-MBD-GFP)を用いて医薬品、品成分、環境化学物質等の約130化学物質のエピジェネティック活性を調べた。さらにDNAメチル化およびヒストンメチル化修飾の変動を異なる蛍光レポーターで可視化するヒトiPS細胞(mcherry-MBD/GFP-HP1a hiPS)を作製し、同様に化学物質のスクリーニングを実施した。また、ヒト細胞における放射線のエピジェネティック影響を確認するために、ヒトiPS細胞を網膜神経節細胞に分化する培養実験に、セシウム137線源から低線量放射線を照射する実験を行った。その結果、網膜神経節細胞形成に関与する遺伝子の発現変動が認められ,低線量放射線被ばくによるエピジェネティックな影響の存在が確認された。1細胞における高効率メチル化解析の手法の開発を進め、リファレンスとなるヒト及びマウスのDNAメチロームデータの収集を行った。また、ベイジアンネットワークの改良や機械学習による判別解析を検討した。初期胚における低メチル化アリル状態の検出方法を確立し、胚盤胞後期からの器官形成期に再メチル化によるDNAメチル化パターンの再構築が少数の細胞で始まることを明らかにした。以上の研究成果は、初期胚や未分化細胞の分化誘導過程におけるDNAメチル化およびヒストンの化学修飾の変動や低DNAメチル化アリルをもつ細胞種の検出により、環境要因の影響を検出できる可能性がある事を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メカニズムベースの細胞アッセイ法の開発においては、マウスmES-MBD-GFP細胞を用いて医薬品、食品成分、環境化学物質等、約130化学物質のエピジェネティック活性を調べた。同様に、ヒトmCherry-MBD/GFP-HP1a hiPS細胞を用いて化学物質のスクリーニングを実施し、種差の検討と共通な影響を調べた。環境リスクへの予防策の開発では、ヒトiPS細胞を網膜神経節細胞に分化誘導する培養実験において、分化誘導初期に低線量放射線を24時間照射後、分化時期の細胞についてRNA-seqによる遺伝子発現およびヒストン修飾抗体を用いたクロマチン免疫沈降シーケンスChIP-seq解析をおこなったところ、放射線で発現が促進される遺伝子近傍において多数の部位でヒストン修飾を受けていることを検出した。1細胞における高効率メチル化解析の手法開発では、CpGサイト数を安定して取得するための技術改良を行い、ハイスループットシーケンス法にて、これまでに困難であった安定して高精度にCpGサイトを計測することを可能にした。昨年度に引き続き、リファレンスとなるヒト及びマウスのDNAメチロームデータの収集及び公開を行った。また、毒性予測における遺伝子発現データ値のベイジアンネットワークへの有用性を機械学習の一方法である多重カーネル学習法により評価した。ブタ初期胚でのDNAメチル化解析により、初期発生から器官形成期に組織・細胞種特異的なDNAメチル化パターンが形成されることを明らかにした。線維芽細胞では細胞の継代に伴って高DNAメチル化の偶然の誘導が引き起こされ、低DNAメチル化アリルの割合とmRNA量が正に相関することを示し、初期胚における低DNAメチル化アリルをもつ細胞種の検出により、環境要因の影響を検出できる事を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
メカニズムベースの細胞アッセイ法の開発においては、引き続き、エピジェネティック毒性物質及び放射線に関する毒性影響を詳細に解析する。グローバルなDNAメチル化変動において化学物質特異的位置があるかどうかを検証し、ヒストンの化学修飾変動との関係性に関する解析を進める。ヒトiPS細胞を網膜神経節細胞に分化誘導する培養実験において、低線量放射線照射によって誘導されるエンハンサー(標的遺伝子の転写を促進することで、細胞種特異的な遺伝子発現の制御に作用する特異配列)候補が確認されており、今後はこれらが神経節細胞の分化誘導に影響しているか否かを確認していく。また、化学物質と放射線照射の間で、特異的なエンハンサーやそれらの共通性などを探求する。エピジェネティック毒性が認められた化学物質については、経口投与による影響を把握するために、in vivo実験を進める。エピミュータジェンの環境リスクへの予防策の開発では、陽性対照物質を用いてメチル化、アセチル化及びDNA損傷の3指標の相互関係をバイオインフォマティクスの解析により検討する。毒性予測の解析手法については、深層学習の利用を検討している。現時点で利用可能な毒性ゲノミクスデータは少ないが、転移学習を含めた深層学習技術を導入すれば、少ないデータ問題を克服できる可能性がある。また、ベイジアンネットワークツールの高度化解析手法の検討も進めている。さらに、低メチル化アリル検出とウルトラディープ解析の組み合わせによるヘテロな細胞集団で特定の遺伝子を発現する細胞の検出法を用いて、発生の初期と後期におけるDNAメチル化状態の変化を高感度に検出する方法の高度化、および低DNAメチル化アリルと遺伝子発現との相関解析を行う。これらの成果を総合して、エピジェネティック毒性の把握と管理に向けた予防策を提案する。
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