研究課題/領域番号 |
15H01751
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
山田 明義 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (10324237)
|
研究分担者 |
藤田 智之 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (10238579)
河原 岳志 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (30345764)
福田 正樹 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (40208963)
齋藤 勝晴 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (40444244)
関 利恵子 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (70334878)
千 菊夫 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (80196980)
植木 達人 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (90221100)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | きのこ / 生理活性物質 / ケモカイン産生抑制作用 / 交配育種 / 分子育種 / ゲノム解読 / 菌根苗生産 / 六次産業化 |
研究実績の概要 |
新種探索と新規有用物質探索:Endogon corticioidesを新種記載し,菌根性担子菌きのこ2種の新種記載論文を投稿した.カイメンタケ子実体のメタノール抽出物からXO阻害活性を指標として成分検索を行い,活性物質として8種の新規化合物を含む13種のanacardic acid類縁体を単離した.ヒト皮膚角化細胞株HaCaTを用いて作用の異なるケモカイン産生抑制作用を持つきのこの活性評価について検討し,RANTESの遺伝子発現およびタンパク質産生レベルでの抑制作用,TARCの遺伝子発現およびタンパク質産生抑制,IL-8の遺伝子発現・タンパク質産生抑制作用をそれぞれ示すきのこを見出した. 新規食用きのこの栽培技術の開発:ヒメマツタケでは,対峙培養の結果生じたセクター状菌糸体を細胞質的に均一な単系統として扱えると考えられた.クリタケでは,白色形質には複数の優性あるいは劣性遺伝子が関与していること,無胞子性変異は優性遺伝子によって支配されていることが示された.長野県産のホンシメジ約10株について菌床培地での子実体発生を試みた. 菌根苗作出:菌根合成法によりアンズタケの菌根苗を新規に60本作成し250ml容器での順化を完了した.マツタケ菌根苗にシロ土壌より抽出したバクテ画分を接種したが,シロを拡大させる菌根ヘルパーバクテリアは見出されなかった.ポルチーニでは,菌根苗4本の大型化に成功した. 生理活性・機能性成分の含量増強,きのこの酵素による物質変換技術の開発:アンズタケでは,胞子分離株法により遺伝的背景の異なる姉妹株約20株を確立した.サカズキホウライタケやスエヒロタケもエノキタケと同等のエタノール発酵能を有することが示された. ゲノム解読とデータベース拡充:Mucoromycotina菌類のゲノムレベルでの系統解析を行い,共生性の菌類の系統関係を明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新種探索では,当初計画以上に進行しており,新たな展開がおおいに見込まれる.菌根性きのこで,さらにいくつかの新種記載が候補にあがっており,今後さらに発見が期待できる.新規有用物質探索でも当初計画以上に進行しており,カイメンタケをはじめとする幾つかのきのこで新たな発見が続いている.今後,創薬候補となりうる化合物やそれらの含有きのこの絞り込みがおおいに見込まれる. 新規食用きのこの栽培技術の開発では,ヒメマツタケやクリタケで興味深い新たな知見が得られており,おおむね順調に進んでおり今後の展開が期待できる.ホンシメジでは予想した子実体発生には至っておらずやや遅れているが,菌床培養については十分に進んでいることから,今後の進展には大きな支障はないと考えられる.菌根苗作出では,大きな柱としているアンズタケで当初の計画以上に多数の苗作成に成功しており,幅広く実験検証に取り組めば十分な成果が期待できる.マツタケでは期待されたヘルパーバクテリアは見出されずやや遅れているが,ポルチーニでは当初計画以上の大きさに苗を成長させることができたため,野外移植の計画を前倒しできるところにまで進んでいる. 生理活性・機能性成分の含量増強はやや遅れているが,アンズタケで姉妹株の確立に成功したことから,今後の研究を進めていく上で大きな支障はないと考えられる.きのこの酵素による物質変換技術の開発でも,酵母と麹菌の複合培養系については遅れているが,サカズキホウライタケやスエヒロタケで興味深い知見が得られているため,今後の研究を進めていく上で大きな支障はないと考えられる.ゲノム解読とデータベース拡充ならびに資源の実用化研究では,まだ十分な成果に至らずやや遅れているが,上述の各課題で十分な成果が出ていることから,それらのまとめに位置づけられる本課題の遂行についても大きな支障はないと考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
新種探索では,新たな展開を目指して国際共同研究の枠組みを多方面で模索していく予定である.すでに,インド,タイ,ガテマラ,アメリカ合州国の関係研究機関との研究協力体制を確立しており,今後さらに有望な新種や資源価値の高い菌種の探索を進めていく予定である.新規有用物質探索でも実用的な研究段階を目指して,他機関との連携・協力体制を進めていくことを検討する. 新規食用きのこの栽培技術の開発では,これまで得られている遺伝学的な知見の実用的な技術への展開に向けて,研究協力機関(長野県林業総合センター)との連携を強化していく予定である.特にホンシメジの栽培技術開発では,緊密な連携を図る予定である.菌根苗作出では,野外移植の段階に到達しつつあるため,林業関係機関との連携に向けての協議などを始めるとともに,新たな技術開発のための野外調査にも力を入れていく.なお,当初計画になかった黒トリュフで菌根苗作出技術を確立でき,マツタケに代わりうる有望な課題となりうるため,当面はマツタケ研究と並行して進めていく. 生理活性・機能性成分の含量増強,きのこの酵素による物質変換技術の開発,ゲノム解読とデータベース拡充では,課題の絞り込みや新たなテーマの掘り出しなどを目的に,共同研究者間の連携推進や意見交換会の機会を増やすことを検討する.これにより,課題全体としての研究の大きな進展を目指す. 資源の実用化研究では,信州大学が関わる既存の産学官連携の枠組みなどを活用し,上述の研究成果をアピールする活動を始める.また,長野県内のきのこ関連業界,食品産業界,林業関係者などとの意見交換を積極的に進めるとともに,研究協力体制についての具体案を模索する.
|