研究課題/領域番号 |
15H01791
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
中島 功 東海大学, 医学部, 教授 (00183509)
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研究分担者 |
黒川 清 政策研究大学院大学, 政策研究科, 客員教授 (30167390)
尾崎 清明 公益財団法人山階鳥類研究所, 保全研究室, 副所長 (40106729)
猪口 貞樹 東海大学, 医学部, 教授 (60160008)
秦 順一 公益財団法人実験動物中央研究所, その他, 所長 (90051614)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロ波 / 呼吸・循環モニタ / 鳥類のヘモグロビン / 気嚢 / 横隔膜 |
研究実績の概要 |
鳥インフルエンザで発症した個体は早期の隔離を目指すならば、抗原抗体反応でのスクリーニングはヒトと同様に困難である。死んだ個体をスクリーニングすることは、感染防止の前向きな政策ではない。 鳥類は横隔膜が無く、肺は硬く、鞴の様な気嚢で換気し、ヒトに比して肺の間質が狭いので酸素が拡散しやすい。 哺乳類と異なり鳥類は胸部だけではなく、腹部も直接換気を司どっており、このため胸部と腹部を同時に観察する必要がある。 このため腹部の動きのみならず、腹部気嚢を制御している骨格筋、その支配神経、脳幹、上位の大脳皮質に対しても留意している。研究の主題は、開発したマイクロ波呼吸計測装置のトランスジューサら発射されるエネルギーを腹部、胸部でそれぞれ独立した系て受信し、減衰量と時間的な遅延を、非接触、無拘束で計測する。 手法は 1)蒸留水を片肺に注入し、意図的に一側性肺炎を引き起こし計測。 2)4つの気嚢(鎖骨内気嚢、前胸部気嚢、後胸部気嚢、腹部気嚢)、肺(背部 回帰気管枝)と口腔内気圧(気管内圧)、これら6つの気圧変化を、直流増幅、および微分増幅し持続記録。 吸入麻酔薬イソフルランで深昏睡の状態に最終的に持って行き、正常から深昏睡までの各気嚢圧の実測値とマイクロ波の相関を求める。3)鳥類のヘモグロビンに合わせた血液酸素飽和度計を開発。4)高出力非接触のマイクロ波呼吸計測装置を戸外に設置し、野生のカラスの呼吸や心拍のモニタが可能か、野外で検証実験を行う。 今年度は対象動物、ニワトリ6羽、ドバト5羽、カラス15羽(鶴岡市捕獲個体を譲り受け)を対象に、1)、2)を実験し、マイクロ波と気圧の相関を求めた、3)は機材を試作し基礎データを取得、4)は遠方でマイクロ波の基礎データを取得し、H5N1に感染したオオハクチョウの遺骸が発見された湖を視察し、実際に野鳥の呼吸モニタが可能であるか伝搬データを求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年11月末から2017年1月までの新潟・宮崎・佐賀などでの殺処分の個体数は、135万羽(アヒルを除く)で、全国家禽1483万羽の9.1%に相当し、家禽1羽あたり価格を430円(保険による1羽の補填額)、殺処分経費を1羽150円と仮定すると、この冬の鳥インフルエンザの直接的な被害額は7億8千万円と算出される。殺処分は毎年繰り返される後ろ向きの政策であり、何ら予防にはならない。鳥インフルエンザは、近い将来、ヒトに対してパンデッミクを引き起こすと推測され、この被害を未然に予測し、最小限に被害を食い止めすための手段の確立は急を要する。今年度の実験を主体とした研究で次のことが分析把握されている。 1)肺炎を発症した個体の呼吸パターン、呼吸回数は正常の個体と比較すると、気嚢圧、マイクロ波とのその兆候を示している。2)肺炎を発症した個体の血中酸素飽和度は低下するとは限らない。3)哺乳類の1回換気という概念は鳥類には存在せず、肺には2回どころか数回も気流が流れ、気嚢間で効率よく空気を使い回ししている。4)運動負荷時は呼気としての大きな吐き出しが存在することもあるが、安静時は気嚢間の圧差の引き算が呼気として出ているので、外観から把握できない。5)一方、吸気は大きく1回存在し、後胸部気嚢、腹部気嚢が主体で吸引する。6)酸素分圧が高く、二酸化炭素分圧が低い気嚢は、後胸部気嚢であり、吸気時の圧変化は気道内圧と同期しており、吸気がもっとも早期に入る気嚢と推定。なお過去の研究の多くは、後胸部気嚢が欠損したダチョウであることに留意すべきであろう。7)肺炎を発症した初期の段階から交感・副交感神経系の制御に異常が認められる。その他、さまざまデータから生理学的な推測がなされ、マイクロ波での観察と実際の呼吸との相関が得られつつある。計画は概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
鳥類の呼吸は、骨格筋で駆動する気嚢により吸気と呼気が決まるので、その比が哺乳類とは違い1:1ではなくn:mである。そのため吸気を引き起こす腹部筋肉の動きを検出し、それに同期させてさまざまな神経パルスを計測する。具体的な手法は、1)吸入麻酔薬イソフルランで誘発される深昏睡状態での呼吸パターン、聴性脳幹反応を検査し、V7,V6波の消失と腹部気嚢の相関をニワトリ、カラスで把握する。さらに肺炎を来たしている個体に対して、2)レントゲン撮影は勿論のこと、鳥類のヘモグロビンに合わせた血液酸素飽和度計の精度の向上させる。本当に血液酸素飽和度は末期まで落ちてこないのか。 さらに現場の実験として3)高出力非接触のマイクロ波呼吸計測装置を戸外に設置し、野生のカラスの呼吸や心拍のモニタが可能か、野外で検証実験を行う。 4)飛翔中の呼吸、循環のテレメトリーモニタと無線免許申請。政策として5)家禽業者、鳩愛好家の鳥インフルエンザに対する意識の向上。6)国際電気通信連合に対して鳥類のテレメトリに使用する注意喚起と周波数資源に関するリエゾンステートメントをITU-D(遠隔医療)を介してITU-R(無線通信)に求める。上記のようなことがらを展望する。
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