研究課題/領域番号 |
15H01796
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小杉 賢一朗 京都大学, 農学研究科, 教授 (30263130)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 土砂災害 / 斜面崩壊 / 土石流 / 警戒避難 / ソフト対策 |
研究実績の概要 |
花崗岩を地質とする兵庫県六甲山において2015年に発生した表層崩壊を対象として,その発生原因を詳細に解析した。約5年間に渡って計測された降雨と地下水位の変動を比較検討した結果,崩壊発生時に基岩内部にある地下水位が,観測期間中の最大値に増加していたことが判明した。この地下水位の上昇は,半減期が約14時間の実効雨量と良好に対応していた。六甲山では,1967年に大きな土砂災害が発生しているが,2015年の斜面崩壊時における半減期14時間の実効雨量は,1968年以降の期間において最大値であった。このことから,大きな土砂災害が発生し流域が荒廃した場合,それ以降の期間における実効雨量の既往最大値超過に着目することが,表層崩壊の予測において有効な手段と成り得ることが推察された。 鹿児島県深港川では,2010年に大規模な斜面崩落が発生した。地質は溶結凝灰岩と火砕流堆積物から成る。その後2015年に再び斜面崩落が発生し崩土が土石流化した。この事例について複合スネーク曲線解析を実施したところ,2010年の斜面崩落については,過去30年間の既往最大値超過に着目することによって予測が可能であると考えられた。一方,2015年に発生した斜面崩落・土石流に関しては,2011年1月以降の既往最大値超過に着目することで,予測できる可能性が示された。有効な実効雨量の半減期は2,000~3,000hであった。以上のことから,火山堆積物を地質とする斜面の大規模崩落とそれに付随する土石流の発生に関しても,複合スネーク曲線解析の有効性,ならびに災害後に既往最大値をリセットする方法の有効性が示唆された。 熊本地震が斜面崩壊に与えた影響に関しては,複合スネーク曲線解析を利用することにより,地震後には既往最大値を超過しない雨でも斜面崩壊が発生することを,従来よりも高精度で示すことができた。その結果を取り纏め,学会誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には,複合スネーク曲線による解析を多くの斜面崩壊・土石流に対して実施した。その結果,種々の地質や地形を持つ山地における土砂災害発生に対して,複合スネーク曲線解析が有用な予測手段であることを示唆することができた。見逃しが発生する事例に関しては,災害発生後に既往最大値をリセットするという方法が効果的であることも,徐々に確かめることができつつある。さらに,地震の震動を受けた斜面や,過去の雨で亀裂が生じた斜面についての既往最大値の取り扱いについても考察を進めている。以上の様に,項目C「過去の災害を対象として,開発したスネーク曲線図に基づく複合スネーク曲線解析を実施し,見逃しの無い土砂災害発生予測ができるか検証する」,項目D「見逃しが起きる場合には,その原因を究明し,改善策を提示する」,項目D「ケースタディ」について,順調に研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には,平成29年度に実施したケーススタディ(項目F)の結果に基づき,再度,項目A,B,C,Dに立ち返って解析手法に修正を加え,より信頼性の高い土砂災害予測手法の開発に繋げていくことを考えている。 これと並行して,最終年度(平成31年度)に実施予定の「手法の実用化に向けた検討」のための準備を進めていく予定である。複合スネーク曲線解析においては,入力となる雨量データが最も重要であることから,これを迅速かつ確実に送受信するための課題を明らかにし,解決のための方法について予備的な検討を行う。さらに,複合スネーク曲線解析の方法や有用性を,分かりやすく伝えることも重要である。解析結果を誰でも理解できる方法で発信する方法についても課題を明らかにし,解決のための方法について予備的な検討を加える。 以上に加えて,同時多発的に発生する大規模な土砂災害に対して,複合スネーク曲線解析を如何に活用すべきかについても検討を加え,より有用性のある手法になるよう改良を試みる。
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