研究課題/領域番号 |
15H01796
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小杉 賢一朗 京都大学, 農学研究科, 教授 (30263130)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 土砂災害 / 警戒避難 / ソフト対策 |
研究実績の概要 |
京都府綾部市上杉町で,平成30年7月7日午前4時20分に発生した斜面崩壊の詳細な調査を行い,この崩壊を引き起こした降雨の特徴を本研究で構築している手法を用いて解析した。崩壊斜面はおよそ40°の急勾配を呈し,崩壊深は2~3 m以上と推定された。根系は土層上部において高密度で発達するものの,滑り面付近では僅に見られる程度であった。また,基岩やパイプからの湧水は発見されなかった。さらに,基岩は著しく風化し粘土化していた。以上の調査結果から,崩壊発生メカニズムとして以下が推察された。まず,崩壊斜面では基岩の風化により厚い土層が形成されていた。土層の下部は粘土を多く含み透水性が低い状態にあったが,上部は森林土壌化により透水性が向上していた。さらに土層全体において細粒成分が多く,保水力に富む特徴を有していた。この様な斜面に3日間で合計約170 mmの雨水が供給され,土層が多量の水を含んだ状況となった。その直後に,強度約30~50 mm/hの豪雨が降り土層内の地下水位が大きく上昇した結果,根系の伸長が僅かな土層下部と基岩の境界面を滑り面とする崩壊が発生したものと考えられる。半減期301時間実効雨量と半減期0.9時間実効雨量を組み合わせたスネーク曲線図において,7月7日午前4時の時点で既往最大値超過が算定され,本研究で提示した複合スネーク曲線解析により崩壊の発生を適切に説明できることが示された。 さらに本年度の研究では,堆積岩山地における地下水位応答の定量的解析や,実効雨量を用いた土砂災害危険度判定手法を道路管理に応用する手法の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間中に多くの土砂災害が発生し,それらを解析することによって,本研究の手法の有用性の検証,ならびに改善すべき点の抽出が進展した。特に平成30年7月豪雨により発生した斜面崩壊については,詳細な現地調査を行った結果に基づき,崩壊の素因・誘因を検討したうえで,降雨パターンの解析を行った。これにより,複合スネーク曲線を用いた解析手法が斜面崩壊発生の物理的プロセスを的確に捉えた手法であることを確認することができた。 さらに,平成30年7月豪雨により発生した土砂災害に関して,国土交通省の研究者,技術者,および政策担当者,ならびに府県の防災担当者と議論する機会を多く持つことによって,本研究で構築する手法の実用化に向けた問題点が炙り出され,さらに改善の方向性についてのアイデアを得ることができた。このように,研究最終年度である2019年度のとりまとめに向けて,研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
過年度の研究によって,土砂災害の見逃しについてはある程度の改善を図ることができたが,引き続き「雨量データが蓄積するに伴って,空振りがある程度の頻度で発生してしまう」という問題が生じている。この原因の一つとして,雨の降り方のパターンが近年変化していることが推察される。そこで,降雨パターンの変化を解析した上で,実際に変化がみられるときの対応策についても検討を加えていくことが必要である。 研究の最終年度である2019年度の後半には,それまでに開発・改良された手法の実用化に向けた取り組みを進める計画である。ここでは,入力となるアメダス雨量データや独自に設置した雨量計のデータを迅速かつ確実に送受信する方法,および複合スネーク曲線解析の結果を判りやすく発信する方法を検討していく。後者においては,既往最大値を超過している雨量指標の組み合わせが一目で判別できるような判りやすい図の提示方法を開発することが重要となる。 研究のとりまとめにおいては,国交省や県に所属する研究協力者と協働で,開発した手法の有用性を検証し,実際の活用方法について検討したい。その結果に基づき,実用性の高いシステムの構築を目指していく。
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