研究課題/領域番号 |
15H01800
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牛田 多加志 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50323522)
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研究分担者 |
古川 克子 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90343144)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞分化制御 / トポロジー / 引張応力 |
研究実績の概要 |
これまでの私ども研究により基質表面の格子のグリッド間の距離を変化させることにより骨髄性幹細胞の分化がコントロールされることや,グリッドが存在することでグリッド上の細胞接着班およびRhoA/ROCK pathwayにより強い活性化が見られることや,グリッドの高さを変化させることにより細胞接着班の3次元的な位置がスイッチングすることを見出した.この知見をベースにトポロジカルな表面として矩形以外の微小形状を有する表面を創製した.具体的には,表面にマイクロオーダーの矩形,三角波,半円といった曲面を有するトポロジカル表面を製作した.このトポロジカルな表面を作製するためには,通常のMEMS技術では実現が困難なため,既に開発済みの単光子と2光子を一つの造形システムの中に組み込むことによりマイクロオーダーの造形とナノオーダーの造形を複合化させたマルチフォトン3次元造形技術を利用した. 一方,細胞内シグナル可視化のための引張応力負荷装置については,対物レンズとして水浸レンズを用い,さらに2個のステッピングモータを用いて引張応力を負荷するシステムを構築した.また,引張応力が負荷された細胞のXY位置を対物レンズの視野内に留めるアルゴリズムの開発を進めた.具体的には,予備微小引張により得た位置情報変化のデータを基にひずみ負荷による培養細胞の位置の変化を推定し,位置補正データをX-Yステージに入力するアルゴリズム,ひずみ負荷によるZ方向のずれを基質材料のポアソン比から推定し対物レンズに装着されたピエゾ素子にZ軸方向の位置補正データを入力するアルゴリズムを組み合わせた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度においては,下記の2つの研究計画を実施した.1つは細胞分化コントロールのためのトポロジカル表面の創製である.開発したマルチフォトン3次元造形技術を用い,材料表面にマイクロオーダーの矩形,三角波,半円といった曲面を有するトポロジカル表面を製作した.この表面をモールドとして,PDMSに転写し,転写した表面をプラズマ処理,細胞接着因子コーティングを行うことにより,矩形,三角波,半円,それぞれの表面パターン上で細胞が培養可能であることが確認された.一方,細胞分化コントロールのための引張応力負荷技術の開発においては,細胞内シグナル可視化のためのX-YおよびZ軸方向の位置制御アルゴリズムを開発した.このアルゴリズムを用いることにより,引張応力負荷下の培養細胞をリアルタイムで観察することが可能となった.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に実施した細胞分化コントロールのためのトポロジカル表面の創製,および細胞分化コントロールのための引張応力負荷技術の開発の成果をもとに,それらを複合化させる.具体的には,引張応力負荷においては伸縮性素材であるPDMSを用いてトポロジカル表面を持つ材料を作製し,表面プラズマ処理,細胞接着因子のコーティングを施す.トポロジカル表面自体の作製はMEMS技術またはマルチフォトン3次元造形技術によって作製されたモールドをPDMSに転写することにより作製する.このようにして細胞接着機能を持ち,かつトポロジカル表面を持つ高分子素材を引張応力負荷システムに組み込むことにより,メカニクスとトポロジーの両ファクターの複合化を実施する.また,トポロジカルな表面で培養された細胞に引張応力を負荷するという,トポロジカル表面から惹起されるシグナルと物理刺激により惹起されるシグナルとを複合化させ,その複合したシグナルが細胞分化に如何に効果を及ぼすかを検証する.引張応力下における細胞のシグナル伝達の可視化のためには,平成27年度に開発されたシステムを用いる.このシステムにおいては,正立型の顕微鏡に装着した水浸レンズを用いるためPDMSなどの不透明材料上の細胞シグナルを可視化することができる.シグナル伝達の可視化における具体的なターゲットは,細胞接着班を構成する分子であるintegrin, vinculin, zyxinを検討する. た本研究におけるキーファクターであるアクチンについてはGFP-actinやDS-Red-zyxinの細胞内再構築の他,アクチンに負荷されているテンションについて,既報のFRETを用いる方法を適用する.
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