研究課題
28年度の実績をまとめる。多能性幹細胞が高アンモニア血症の環境にさらされれば、アンモニアを処理できる細胞が分化してくるであろう、あるいは処理できる細胞が残るであろうと考え環境を変えることで誘導する新たな分化誘導法を考案し、その効果を検討してきた。アンモニアの閾値はきわめて狭いが、適量で生存可能であることをトリパンブルーで確認した。次にICGにさらすとアンモニア処理群で強く染色された。網羅的遺伝子解析では、未分化マーカーの大半が下降しており、肝細胞マーカーに焦点を絞るとほとんどが上昇していた。これほどクリアに変化するとは考えていなかった。さらにABCトランスポーターで排泄に関与するABCC3、SLC51A、SLC51B、ICG取り込みに関与するSLC10A1、毛細胆管のトランスポートに関与するAQP8、 ABCC2がアンモニア処理群で発現しており、ICGの動態と重ね合わせ機能的な細胞に分化したと考えた。胆汁酸の合成に関与する遺伝子では、STAR、ACOX2、HSD3B7、HSD3B1などがアンモニア処理群で上昇した。この内容の前半はPloS Oneに報告した。次にアンモニア処理細胞を用いて副次肝作成を行った。ヌードラットの腸管をループにし、消化管から独立させ、粘膜下組織に細胞を移植した。移植組織の形態学的解析では、タクロリムスを併用するとリンパ球の浸潤が少なく、免疫抑制は確保できていると判断した。さらに、カニクイザルへの移植を2例実施した。異種移植であったため、タクロリムス局所投与と全身投与とを併用しながら行った。また手術は腸管の壁を2カ所切開し張り合わせて移植した。いずれも1カ月間生存した。組織像では細胞の生存の有無を明確に確認できていないが、リンパ球の浸潤等は認められず、免疫抑制は期待できるように思えた。
2: おおむね順調に進展している
このプロジェクトについては、三つの骨格があり、その軸をぶらさないようにしながら進めてきた。その一つは、分化誘導で得られた肝細胞の性状解析、二つ目はヌードラットを用いて、分化肝細胞を腸管粘膜下組織に移植し腸管から独立した新たな副次肝を作成すること、三つ目はトランスレイショナルリサーチとして霊長類への移植を実施することである。28年度の大きな目標は、性状解析において実施した網羅的遺伝子解析の中で主成分分析をベースに分化肝細胞の特性解析を実施することであった。この解析により、アンモニアを用いた独自な分化誘導法により作成された肝細胞を細胞株に従い、三次元的に描出することができた。ここまでの内容をPloS One誌に発表した。さらに、ICG取り込み・排泄は良好であり、毛細胆管系の機能は確保できていると考えられた。また、ICG取り込み・排泄、胆汁酸のトランスポーター、胆汁酸合成に係る遺伝子発現はアンモニア処理により明白に上昇した。それにかかわる細胞構造について現在形態学的に検討を加えている。ヌードラットを用いた実験が順調に進み始め、現在、形態学的な所見を得ており、免疫抑制効果を確認している。少なくともヌードマウスではタクロリムス併用で著明な拒絶はみられていない。本年度よりサルを用いた実験を本格的に開始した。最も懸念した異種移植による拒絶は少なくともタクロリムス投与で組織学的には免疫拒絶の兆候は見られなかったが、組織の生存についてはまだ十分な手ごたえを得ていない。現在、通常ラットを用いた異種移植を試み、免疫抑制法の改良を行うとともに、どのステージの分化細胞を移植すれば効率が良いかを検討している。以上の研究経過から、おおむね順調に進展していると考える。
今年度は28年度の実績を踏まえ、次の3項目について検討する。1.28年度に網羅的遺伝子解析による多能性幹細胞由来肝細胞のプロファイリングを実施し、その内容をPloS One誌に発表した。29年度は、多能性幹細胞由来肝細胞の質と機能性を判定することを目的にアンモニアを用いた新規分化誘導法により得られた分化肝細胞の代謝系に関わる遺伝子解析、さらにメタボローム解析を実施し、質と機能性の観点から分化細胞のプロファイリングを進める。同時に分化誘導法の安定性、有効性を確実にする。2.28年度にヌードラットを用い、腸管を切離、ループ状に再建し独立した腸管肝臓作成方法を完成し、細胞の移植を試みた。29年度は移植した組織を週単位で摘出し、細胞構築、機能性、ICGの取り込みと管内への放出について細胞生物学的に継時的解析を行い、げっ歯類での腸管の肝臓化を実現する。同時に通常のラットにヒト細胞を移植し、異種移植における免疫拒絶の状況を免疫細胞の動態と関連させて把握し、それを阻止するための免疫抑制剤投与の効果について、組織の生存の有無、炎症反応の強弱を解析しながらサルへの移植の基礎データとする。3.28年度にトランスレイショナルリサーチを目的に、カニクイザル2匹に分化肝細胞の移植を試み、タクロリムスの局所、全身投与で拒絶をコントロールしながら、4週目に組織学的検討を実施した。29年度は、1,2の結果を踏まえながら、4週目に、移植組織の組織構築、免疫抑制剤の効果の把握、移植組織の機能性に焦点をあて、細胞生物学的解析を加えながら、霊長類での腸管の肝臓化の実現を目指す。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (18件) (うち査読あり 14件、 オープンアクセス 15件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 5件) 図書 (3件)
Hepatol Res
巻: 47 ページ: 226-233
10.1111/hepr.12712
Liver Int
巻: 37 ページ: 897-905
10.1111/liv.13316
Anat Sci Int
巻: 未定 ページ: 未定
doi: 10.1111/hepr.12855.
巻: 47 ページ: 405-418
doi: 10.1111/hepr.12762.
PLoS One
巻: 15 ページ: e0162693
10.1371/journal.pone.0162693. eCollection 2016.
巻: 46 ページ: 1019-1027
doi: 10.1111/hepr.12649.
Dig Endosc
巻: 28 ページ: 607-610
doi: 10.1111/den.12650.
BMC Microbiol 16 (1) 224,
巻: 16 ページ: 224
巻: 46 ページ: 884-889
doi: 10.1111/hepr.12631.
Hepatology
巻: 63 ページ: 2063-2064
doi: 10.1002/hep.28113.
Endosc Int Open
巻: 4 ページ: E170-174
Sci Rep
巻: 6 ページ: 29770
doi: 10.1038/srep29770.
巻: 46 ページ: 878-883
doi: 10.1111/hepr.12639.
巻: 46 ページ: 1171-1186
doi: 10.1111/hepr.12676.
肝・胆・膵
巻: 72 ページ: 469-473
臨床消化器内科
巻: 31 ページ: 301-306
医学のあゆみ
巻: 259 ページ: 279