研究課題/領域番号 |
15H01807
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
丸山 厚 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (40190566)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アロステリック制御 / 核酸 / 核酸酵素 / カチオン性くし型共重合体 / 核酸四重鎖 |
研究実績の概要 |
近年、酵素タンパク質と同様に触媒活性を示す核酸酵素が見出された。核酸酵素は熱的安定性や化学合成及び修飾が容易であるといったから、遺伝子診断やDNAコンピュータなどの分野での応用が期待されている。核酸酵素の一種として、過酸化水素の分解に伴う基質の酸化を触媒するペルオキシダーゼ模倣核酸酵素が知られている。ペルオキシダーゼ模倣核酸酵素は、DNA四重鎖構造及び金属ポルフィリンの一種であるヘミンとの複合体から成る。この四重鎖はパラレル型とアンチパラレル型配向を持ち、パラレル型で高い核酸酵素活性を示す。すなわちDNA四重鎖構造を制御することで、核酸酵素活性も制御出来ると考えられる。 既に、カチオン性高分子poly(L-lysine)-graft-dextran (PLL-g-Dex)がパラレル型四重鎖を選択的に安定化することを報告してきた。つまり、PLL-g-Dexによる酵素活性の強化が期待される。またカチオン性高分子により安定化されたDNA構造は、アニオン性高分子を加えDNA/PLL-g-Dex複合体を解離することで、元の構造へ復帰する。本研究ではPLL-g-DexがDNA四重鎖構造及び核酸酵素活性に与える影響を評価し、PLL-g-Dexを正のエフェクターとした酵素活性制御を検討した。核酸酵素のみでは、反応はほとんど進行しなかったのに対し、PLL-g-Dex存在下反応が顕著に促進されていた 。核酸配列の異なる種々の核酸酵素で、PLL-g-Dexの存在下、反応が促進された。円二色性スペクトルより、PLL-g-Dexがいずれの核酸酵素もパラレル型への変換を促していることがわかり、PLL-g-Dexはアロステリックエフェクターとして核酸酵素の活性を制御することが見いだされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、生体高分子の機能を革新的に高めるナノ材料の設計とそれによる医工学デバイスの革新を目的としている。生体高分子の機能発現には、その高次構造形成が重要な役割を果たす。さらに、高次構造の転移がシグナル伝達、物質輸送、物質合成などの高度な生体機能の基幹となっている。従って、高次構造の形成と構造間の転移を制御する方法論が、生体分子の効果的な活用に不可欠になる。既に、申請者らが創出したカチオン性共重合体により、核酸プローブ、核酸論理回路などの機能向上、機能性ペプチドの活性向上が可能なことを見いだしてきた。さらに、ヌクレアーゼ活性を有する核酸酵素の活性も高める上でも共重合体が有用であることを示してきた。これらの例は、いずれも共重合体がハイブリッド形成過程を速度論的に高める効果に主に依存している。一方、H29年度はペルオキシダーゼ模倣核酸酵素に対し、共重合体がアロステリックエフェクターとして働くことをはじめて明らかにした。つまり、共重合体はハイブリッド形成のみならず形成された核酸自己組織化構造を他の構造に転移させる上でも有用であることが示された。このような効果を利用し、核酸酵素活性を制御した例は初めてと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、核酸の自己組織化構造特に4重鎖核酸の配向を共重合体により変換できること、さらにその効果により4重鎖構造を基本骨格とする核酸酵素の活性を顕著に高められる事をみいだした。そこで今後は、1)核酸自己組織化構造の変換の速度論的および熱力学的解析を進め、2)構造変換の分子機構解析する。また、3)核酸構造変換に求められる共重合体構造を抽出し、4)より高い機能を有する共重合体の分子設計法を確立する。さらに、5)外部からの物理刺激や環境応答的に活性が自律的にONーOFF制御する共重合体を設計し、新たなスマート核酸酵素システムへと発展させる。
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