研究課題/領域番号 |
15H01819
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
尾上 浩隆 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (80214196)
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研究分担者 |
水間 広 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 研究員 (00382200)
西村 幸男 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, プロジェクトリーダー (20390693)
田原 強 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 研究員 (20419708)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脳機能再編 / 脊髄損傷 / 腹側線条体 / 機能イメージング / 精密把持 / モチベーション |
研究実績の概要 |
脳梗塞や脊髄損傷患者の多くは運動機能の麻痺と併発して鬱症状を示し、これがリハビリの妨げとなることが多い。我々はこれまでに、頸椎の特定の部位を特異的に切断したマカクザルを用いて、PET法を用いた非侵襲的な脳機能画像解析により、損傷後の機能回復には、回復過程に依存した一次運動野(M1)と運動前野(PM)に加え、側坐核を含む腹側線条体のダイナミックな活動が重要であることを明らかにした。そこで本研究では、回復過程 における神経回路再編について、ウィルスベクターによる神経機能修飾や脳機能画像法を組み合わせた解析を行い、機能回復における意欲や動機付けの神経・分子機構の解明を試みている。昨年度まで、腹側線条体は脊髄損傷後の早期回復期において一次運動野の活動を上方制御していることを明らかにしてきたが、本年度は、脊髄損傷後の運動機能回復過程における腹側線条体のさらに脳全体への大規模な因果的関与を明らかとするための解析を行った。その結果、精密把持課題の回復過程では、両側の前補足運動野(preSMA)、脊髄損傷と対側の腹側前運動野(PMV)、同側の一次運動野(M1)、同側の一次感覚野(S1)、両側の被殻(Pu)、対側の視床(Th)などの感覚運動領域や、両側の腹側線条体や対側の眼窩前頭皮質(OFC)などの辺縁領域において、脊髄損傷と対側の一次運動野との有意な正の相関が観察された。これらの相関は脊髄損傷前や全指による把持課題遂行時には観察されず、脊髄損傷後の精密把持の課題遂行時においてのみ、腹側線条体と一次運動野を含む運動関連ネットワーク間により強い機能結合が起こっている可能性が示された。さらに本年度は、腹側線条体の活動に強い影響をもつことが知られている腹側被蓋野(VTA)からの投射について、ウィルスベクターを用いた検討に着手した。その結果、腹側被蓋野からブローカの対角体などの前脳基底部(BF)への投射を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機能イメージングで得られたデータをさらに脳全体について詳細な解析を加えた結果、側坐核を含む腹側線条体が脊髄損傷後の精密把握動作に一次運動野を含む感覚運動ネットワーク全体の活動促進に関わっている可能性が示された。このことは、機能回復を実現するための脳内神経回路の再組織化において、腹側線条体は、一次運動野のみならず、運動の回復に必要とされるほぼすべての神経領域に働きかけている可能性が示唆された。このことは、今後、腹側線条体を中心とした回復過程の神経基盤を考える上で重要な手がかりになると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
脊髄損傷後の運動機能回復において、側坐核を含めた腹側線条体による脳の再組織化が、実際には一次運動野のみならず、感覚運動領域や辺縁系にまだおよんでいることから、現在、再生中の神経細胞で高発現していることが知られているリン酸化Gap43の免疫組織を進めている。また、特異的な神経伝達を遮断することについては、p11に対するshRNAのウィルスベクターの構築を進めているが、昨年度、p11がサルにおいて側坐核や前脳基底部のアセチルコリン神経に特異的に存在していることが明らかとなったことに加え、今年度、前脳基底部が腹側被蓋野から強い投射を受けていることが明らかとなり、今後、ドーパミン神経とアセチルコリン神経との関連性についても解析を進める。
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